もう、どれくらい歩いただろう。
もう、どれくらいの間空腹に耐え続けただろう。
それは、長い長い時間だったかもしれない。
ほんの少しの時間だったかもしれない。
僕らは、もう、自分の輪郭を失いかけていたかもしれない。
だけど、それで良かった。
何も
考えなくていい。
全部、終わるから。
ー⋯暑い。
声がする。
誰のものかはわからない。
僕自身だった気もするし、親だったような気もする。
知らない大人の声だったのかもしれない。
揺れる視界に、やけに鮮やかに響く蝉の泣き声。
あてもなく彷徨う蝉の群れを睨みつける。
僕らはふたりぼっちだ。
迫り狂う鬼たちの怒号が、僕を責める。
ー⋯うるさいな。
わかってるよ。
僕だって、生きていられるならその方が良かった。
僕だって、莉犬と、生きてみたかった。
幸せになりたくないわけないじゃんか。
僕らを追い詰めたのは、僕らを捨てたのは、僕らを死なせるのは、
僕らが、諦めたのは。
全部全部、世界のせいじゃないか。
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何も考えずに歩き続けて、僕らは小さな町のはずれの廃屋に辿り着いた。
ふらふらと引かれるように中に入る。
暑さに耐えた皮膚がじんじんと痛む。
風通しのいいそこは、ひんやりと涼しかった。
バタン、と床に倒れ込んで、力なく笑う。
一瞬の間。
飲み込む言葉。
僕は、知らないフリをして続ける。
知らないフリをしていることに気づいて欲しくて、僕は莉犬に向かって問いかける。
莉犬。
莉犬は、どうしたい?
僕は知ってるよ。
莉犬は⋯
るぅちゃんと、と付け加える莉犬はの声は静かだった。
⋯また。
⋯まただ。
馬鹿。
駄目だよ。
そんなの、許さない。
莉犬が声を詰まらせる。
僕はぎゅっと目を瞑ったまま唇を噛んだ。
駄目。
それは駄目。
僕は、僕は莉犬に⋯っ
震えた声に、目を開ける。
莉犬が、泣きそうな顔で僕を見ていた。
悲しそうな目で。
ーやめて。
何で、何で莉犬がそんなー⋯
声がかすれる。
うわ言のように繰り返し名を呼ぶ僕に、莉犬は悲しそうに笑ってみせた。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
やめて。
やめて⋯っ
莉犬が、ゆっくりと体を起こした。
立ち上がって、寝転んだままの僕を見下ろす。
莉犬は、ずっと。
何を見てたんだろう。
何も考えずに、僕は立ち上がった。
頭ががんがんする。
まっすぐに莉犬の目を睨み、莉犬の肩を押した。
ダンッと大きな音がして、莉犬の背中が壁にぶつかる。
至近距離で莉犬と目が合った。
混乱したような莉犬の瞳に映る僕は、泣きそうな顔をしていた。
頭が空っぽだった。
腹が立って仕方がなかった。
悲しくて、仕方がなかった。
ー気づいて。
気づいて。
気づけ。
気づけ、馬鹿っ
そんなの⋯っ
気づいてしまう。
僕はまだー⋯
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莉犬に、死んでほしくない。
莉犬に、生きててほしい。
僕も、死にたくない。
莉犬のいる世界で、生きたい。
莉犬の隣で、笑いたい。
また、明日もー⋯
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生きたい。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。