第7話

Episode6
161
2025/10/28 09:00 更新
もう、どれくらい歩いただろう。

もう、どれくらいの間空腹に耐え続けただろう。

それは、長い長い時間だったかもしれない。

ほんの少しの時間だったかもしれない。


僕らは、もう、自分の輪郭を失いかけていたかもしれない。
 



だけど、それで良かった。








何も








考えなくていい。







全部、終わるから。



























ー⋯暑い。

声がする。

誰のものかはわからない。

僕自身だった気もするし、親だったような気もする。

知らない大人の声だったのかもしれない。




揺れる視界に、やけに鮮やかに響く蝉の泣き声。


あてもなく彷徨う蝉の群れを睨みつける。



僕らはふたりぼっちだ。



迫り狂う鬼たちの怒号が、僕を責める。









ー⋯うるさいな。








わかってるよ。
 






僕だって、生きていられるならその方が良かった。











僕だって、莉犬と、生きてみたかった。








幸せになりたくないわけないじゃんか。









僕らを追い詰めたのは、僕らを捨てたのは、僕らを死なせるのは、 




僕らが、諦めたのは。













全部全部、世界おまえらのせいじゃないか。




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何も考えずに歩き続けて、僕らは小さな町のはずれの廃屋に辿り着いた。



ふらふらと引かれるように中に入る。

 

暑さに耐えた皮膚がじんじんと痛む。

風通しのいいそこは、ひんやりと涼しかった。








莉犬
疲れた⋯
るぅと
ん⋯


バタン、と床に倒れ込んで、力なく笑う。
るぅと
これから、どうしよっか
莉犬
⋯ん


一瞬の間。


飲み込む言葉。



僕は、知らないフリをして続ける。

知らないフリをしていることに気づいて欲しくて、僕は莉犬に向かって問いかける。
るぅと
莉犬は、どうしたい?これから
莉犬
俺⋯?

莉犬。


莉犬は、どうしたい?




僕は知ってるよ。








莉犬は⋯




莉犬
俺は⋯んー⋯まだもうちょっと、色んなとこ行きたい。

るぅちゃんと、と付け加える莉犬はの声は静かだった。
るぅと
⋯僕も
莉犬
るぅちゃん、ありがとうね
るぅと
⋯え


⋯また。


⋯まただ。
莉犬
俺は⋯俺は、るぅちゃんのこと、大好きだよ
るぅと
⋯ッ
莉犬
だから、だから⋯

馬鹿。




駄目だよ。




そんなの、許さない。
莉犬
るぅちゃんは⋯っ

莉犬が声を詰まらせる。




僕はぎゅっと目を瞑ったまま唇を噛んだ。
莉犬
るぅちゃんは、俺とは違う。
莉犬
るぅちゃんはね、幸せにならなきゃいけない。


るぅと
何⋯っそんなの⋯!


駄目。




それは駄目。





僕は、僕は莉犬に⋯っ
莉犬
るぅちゃん

震えた声に、目を開ける。


莉犬が、泣きそうな顔で僕を見ていた。


悲しそうな目で。



ーやめて。


何で、何で莉犬がそんなー⋯
るぅと
り⋯ぬ⋯

声がかすれる。
るぅと
莉犬、莉犬⋯

うわ言のように繰り返し名を呼ぶ僕に、莉犬は悲しそうに笑ってみせた。

莉犬
るぅちゃん、あのね

嫌だ。



嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


やめて。


やめて⋯っ
莉犬
俺、やっぱりるぅちゃんとは居られない。

莉犬が、ゆっくりと体を起こした。

立ち上がって、寝転んだままの僕を見下ろす。




莉犬は、ずっと。


何を見てたんだろう。

莉犬
俺は、世界ここには居られない、 

るぅと
⋯っ!

何も考えずに、僕は立ち上がった。


頭ががんがんする。


まっすぐに莉犬の目を睨み、莉犬の肩を押した。



ダンッと大きな音がして、莉犬の背中が壁にぶつかる。
莉犬
⋯うッ

至近距離で莉犬と目が合った。


混乱したような莉犬の瞳に映る僕は、泣きそうな顔をしていた。
るぅと
ふざけるなッ⋯!

頭が空っぽだった。



腹が立って仕方がなかった。







悲しくて、仕方がなかった。








ー気づいて。


気づいて。


気づけ。





気づけ、馬鹿っ






そんなの⋯っ
るぅと
そんなの許さない!!!
るぅと
僕は⋯ッ

気づいてしまう。



僕はまだー⋯





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莉犬に、死んでほしくない。




莉犬に、生きててほしい。




僕も、死にたくない。




莉犬のいる世界で、生きたい。




莉犬の隣で、笑いたい。




また、明日もー⋯





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生きたい。






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