翌朝から仁菜は何事もなかったように普通で、僕も変わらず接した。
フードを脱いで、数週間が経ったある日のこと。
時々話しかけてくれていた他クラスの女子に、放課後、ついてきてと頼まれてやってきた校舎裏で突然告白された。
じ、人生初告白……。仁菜に告う前に自分が告われるなんて思わなかった。
こんなに真っ赤になって伝えてくれて……嬉しいな。
期待に彼女の顔が輝き、あ、言う順番間違えた、と内心慌てる。
すると黙った僕を見て察したのか、彼女は落ち込むように視線を落とした。
僕はできる限り優しく微笑んで言う。
身体が熱くなって頬が火照るのを感じた。
ふっと、告白してくれた女子が笑う。
それなら、仁菜がずっと僕の想いに気付かないのは仁菜は僕を好きじゃないから……。
そういう意味で言ったんじゃないと分かってはいたが、どうしても思考はそちらに傾いた。
彼女がもどかしそうに視線を彷徨わせる。
そろそろ立ち直らないと迷惑をかけてしまうため、僕は首を振ってから彼女に微笑した。
彼女にこの場を去らせるより、僕が去った方がいいだろう。そう考えて、僕は踵を返し、校舎裏をあとにした。
……これでよかったかな。だけど一人で泣きたいかもしれないし……振った側なのに振られた側に気を遣わせるのも嫌だったし。
うん。これがいいよね。
真っ赤な顔で「好きです」と言ってくれた時のあの子が脳裏に蘇る。
自分でも、僕は少し変わったと思う。過剰に人目を気にすることがなくなって、笑いたい時に笑えるようになった。
だけど全てが変わったわけじゃないから、今僕が仁菜に告白しようとしても、多分あんな風に赤くなるだろう。緊張でつっかえてなかなか言えないような予感もする。
__でも、一番大事なのは「伝える」ことな気がした。
かっこよく告うことじゃなくて、あなたのことが好きだという気持ち。
少なくとも僕は、それが一番嬉しかった。
まだ仁菜は彼氏ができてない。近いうちに、絶対告おう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。