第4話

帰りたい女 vs 帰れない男
444
2026/04/26 14:15 更新
定時五分前。
オフィスは、ちょうど夕方のゆるい空気に包まれ始めていた。
あなた
さーて、そろそろ帰ろっかな〜
パソコンを閉じ、上着を羽織って、
何食わぬ顔で時計を見る。
あなた
(今日もちゃんと定時で帰れるな〜)
即帰宅して、軽く夕飯食べて
ちょっと勉強して、早く寝よ……
あなた
(いやでも、今日も一日がんばったし帰りにラーメンでも食べて帰ろう)
 
そう思っていた瞬間、隣の席から低い呻き声がした。
ini
ああ"あ"…編集終わんない…
見ると、乾のPCにはタイムラインがずらーーっと伸び、
字幕レイヤーが地層みたいに積み重なっている。
あなた
何その画面…静かな惨劇?
ini
惨劇じゃないし!まだ救える段階だから
そう言ってるけど、乾の目は完全に死んでいる。
あなた
…乾、ガンバ!
ini
憐れむような目で見てくんな
今日は定時で帰りたかったけど…
んー、確かに緊急っぽい時に帰るのもな〜
あなた
手伝おうか?
ini
それは助かるけど…何を?
あなた
とりあえず、応援?
ini
要らな、
確かに。何の意味もないか。


私はせめて邪魔にならないよう、乾の後ろからPCを覗き込む。
あなた
アレ、それ前回のやつ混ざってない?
ini
え、どこ
あなた
ここ、なんか今回情報多めやなって思ってたけど
ini
うわ、そうじゃん…
そりゃ進まない筈だわ
乾は要らないデータを消去し、
急いで図表の制作に取り掛かった。
あなた
あ、その図表は私がやるからさ
一旦乾は細かいとこ修正してて
さっとリュックからパソコンを取り出す。
図表作成は得意!
さっさと終わらせるぞ〜
ini
あ、いやでもあなたの下の名前さ、時間大丈夫なの?
あなた
あー大丈夫!
帰りたくなったら帰るから
ささーっとキーボードを打ち込んで、
図表を作成していく。
ラーメン屋はまだ開いてるだろうし、
もし閉店してたらコンビニで買えばいっか!



乾side
ini
…あと少し
2人で作業を始めて30分。
滞っていた編集は嘘みたいに進み始める。
残りの段落を打ちながら、あなたの下の名前がぼそっと呟く。
あなた
編集終わったらさ、ラーメン食べ行こ
ini
え、食べたい
あなた
じゃ、早く終わらせよ!
あともう少し!
その一言が、俺の背中をドンッと押した。
ini
…頑張ろ




そして、時計の針が22時を過ぎた頃。
ini
終わった…!!
俺は椅子に崩れ落ち、天井を見つめながら笑った。
あなたの下の名前は荷物をまとめて、
あなた
じゃあ行こ、今日のご褒美ラーメン!
と、いつもよりテンション高めに言う。
あなた
今日は私の奢りね!
ini
え、良いの?
あなた
いーよ!頑張ったやん?
ini
…今日はありがと。助かった。
不器用すぎる感謝に、あなたの下の名前は足を止める。
あなた
同僚困ってたら助けるに決まってんじゃん!
あなたの下の名前は目を細めて、口角をきゅっと上げて笑った。
その笑顔があまりにも柔らかくて、
俺は一瞬、返事を忘れてしまった。
あなた
ほらほら!早く行かないと閉まっちゃうかもよ?
ini
うん


外に出ると、夜風が気持ちよくて
歩いているうちに、自然と足取りも軽くなる。
あなた
今日もなんとかなる一日だったね!

一足先で歩くあなたの下の名前は、楽しそうにこちらを振り向いた。
本当、あなたの下の名前の“何とかなる精神”で世界を回せそうだ。
あなた
ちな今日、私替え玉いくけど乾もいく?
ini
…いかせていただきます

そう笑って、俺はあなたの下の名前の後ろを追いかけた。

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