定時五分前。
オフィスは、ちょうど夕方のゆるい空気に包まれ始めていた。
パソコンを閉じ、上着を羽織って、
何食わぬ顔で時計を見る。
即帰宅して、軽く夕飯食べて
ちょっと勉強して、早く寝よ……
そう思っていた瞬間、隣の席から低い呻き声がした。
見ると、乾のPCにはタイムラインがずらーーっと伸び、
字幕レイヤーが地層みたいに積み重なっている。
そう言ってるけど、乾の目は完全に死んでいる。
今日は定時で帰りたかったけど…
んー、確かに緊急っぽい時に帰るのもな〜
確かに。何の意味もないか。
私はせめて邪魔にならないよう、乾の後ろからPCを覗き込む。
乾は要らないデータを消去し、
急いで図表の制作に取り掛かった。
さっとリュックからパソコンを取り出す。
図表作成は得意!
さっさと終わらせるぞ〜
ささーっとキーボードを打ち込んで、
図表を作成していく。
ラーメン屋はまだ開いてるだろうし、
もし閉店してたらコンビニで買えばいっか!
乾side
2人で作業を始めて30分。
滞っていた編集は嘘みたいに進み始める。
残りの段落を打ちながら、あなたの下の名前がぼそっと呟く。
その一言が、俺の背中をドンッと押した。
そして、時計の針が22時を過ぎた頃。
俺は椅子に崩れ落ち、天井を見つめながら笑った。
あなたの下の名前は荷物をまとめて、
と、いつもよりテンション高めに言う。
不器用すぎる感謝に、あなたの下の名前は足を止める。
あなたの下の名前は目を細めて、口角をきゅっと上げて笑った。
その笑顔があまりにも柔らかくて、
俺は一瞬、返事を忘れてしまった。
外に出ると、夜風が気持ちよくて
歩いているうちに、自然と足取りも軽くなる。
一足先で歩くあなたの下の名前は、楽しそうにこちらを振り向いた。
本当、あなたの下の名前の“何とかなる精神”で世界を回せそうだ。
そう笑って、俺はあなたの下の名前の後ろを追いかけた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。