第94話

なんと続きます
27
2023/12/22 11:49
僕の3代程前の人は、全てのものを愛していました。

人間や他の吸血鬼と協力して生物を捕え、自分の庭に呼んで、
ただひたすらに愛していました。

僕の3代程前の人は、愛したものを殺しました。

その人の能力により、その記憶は代々伝わっています。

“あの人の夢は野球選手になることでした”

“あの子は猫を飼うなら黒がいいと言いました”

“彼等のために私は愛します。全ては一つになるために”

その優しい声は“呪い”となって僕に囁きます。

愛したものの悲鳴が聞こえます。

愛したものの亡骸を抱いています。

全て僕に伝わっています。

僕はこれが心底恐ろしいのです。
ハツ
あ、ごめん俺ジュース買ってくる。足りなかったぽい
ルイ
あ、ありがとう
ライナ
めっちゃちょーだいねー
勉強会が始まって早々、ハツが席を外す。

彼は僕に目配せをする。

あとは僕次第。

そう自分に唱えて見送った。
ライナ
行ってくれた早々申し訳ないけど
喉乾いたな…水借りよ
ルイ
あ、僕も
ハツの家はコンパクトで小洒落た一軒家だ。

一階に降り僕らはキッチンへ向かう。

しかしそこでは策士の試練が待ち受けていた。
ライナ
コップはー……1個だけ?
ルイ
(何ぃ!?)
どこを探しても見当たらない。

完全にハツの仕業なのだろう。

ライナはまぁいっか、と軽く呟く。
ルイ
(何で?何……どういう?)
ライナ
………、はいルイ。水
ルイ
え?
ライナは口を拭いながらコップを僕へ向ける。

3分の2ほどあまった水が揺れていた。
ルイ
……………………ぁ




間接………
ルイ
(そういうことかよ!)
ルイ
………ありがとうライナ。でも僕もうちょっと探すよ
ライナ
え、マジで?いいよこれで
ルイ
んー、置いといて
ライナ
……?へーい
僕はすぐさまスマホを取り出し、ハツのラインを開く。
が、しかし既にそこには

“俺のことは気にするな”

とだけ書いてあった。

そうじゃねんだよぉ!

僕は玄関へ向かう。

確か玄関の外で待っていると言っていたはずだ。

その扉に手を伸ばす。しかし僕は寸で止まる。

“お前がドアを開けると俺ん家のコップは全て割れます”

そうメモが残されていた。
ルイ
(ドアの外にコップ積んでんじゃねえ!!)
八方塞がりのようで、僕は泣く泣く二階へ戻った。

もう喉が渇いたどころではなくなっていた。
ルイ
ただいまー
ライナ
あっ、おかえり
ライナは笑顔で僕を見る。


……いや、向き合うしかないんだ。

そう思ってライナの顔を覗く。


僅かに違和感を抱いた。
ルイ
…………ライナ?何か言いたげじゃない?
ライナ
…………えっサトリ?
ルイ
いや何年の付き合いだと
ライナ
まぁ…それもそうか
落ち着かない様子でライナは目を逸らす。

たった二人だけの部屋。

ライナは少し気まずそうな顔をして座り直す。

いくらか躊躇った後、ライナは口を開いた。
ハツ
(………雨降ってきたな…)
ハツ
(コップどうだろうか…開けるなよマジで)
ヒヤリと冷たい空気が頬を撫でる。

雨粒が跳ね、魚のように舞う。
そんな景色をぼんやりと眺めていた。

その時、がむしゃらに響く足音がした。

目を向けた頃にはすでに、彼が胸に飛び込んできていた。

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