俺は神の子だった
俺の血はどんな毒をも消し去る万能の解毒剤だった
だから誰もが俺の血に頼った
この血はどんな毒でも細菌でも人体に悪影響な物質を消し去ったから
病気になっても、
毒に侵されても必ず俺に頼った
それが嬉しかった
だから俺は頑張った
そのせいでいつも貧血だったけれど我慢した
なのにある日
俺は予備になった
新しい神の子がやってきたのだ
彼がいればお金がいくらでも手に入った
薬も買えるようになった
もう誰も俺のことなんて見ていなかった
お金が手に入ればもう俺の血がなくてもいい
俺は本当に急がなくちゃいけないような、
薬を買いに行く時間もないような状況になった時のための
安全装置になっていた
そして俺は恥じたのだ
神の子だと呼ばれいい気になっていたことを、
自分が頼りにされているとそう勘違いしていたことを
そんな時、『神の子』が病気になった
俺の血が久しぶりに必要とされた
でも俺の血は彼を治すことができなかった
俺は安全装置ですらなくなった
彼は暫くして完治したが俺は村を追い出された
一人で夜に出ていこうとしたんだ
彼はそう問いかけた
何処か遠い所へ、俺の血は君の役にはたてなかったから。
そう答えて去ろうとした
すると神の子は
なんでそうなるの⁉
そう叫んでしまった
なにそれ
そう笑うと彼も
そう言って笑った
君は面白いねと神の子にいって俺たちは旅立った
最初は海へ、そのまま街へ、河へ、そして森へいった
そこで俺たちは不思議な少年と出会った
少年は莉犬と名乗った
莉犬くんはいつも悲しそうで理由を聞いた
莉犬くんは自分の血について語った
そして俺は思い出した
俺の血は神の子には使えなかったことを
そして思ったのだ
特殊な血同士は中和反応のようにそれぞれを無効化するのではないかと
だから俺は莉犬くんの血を飲んだ
やはり莉犬くんの血が俺たちに効くことはなかった
その事を説明して僕らが特殊な血を持つとカミングアウトした
莉犬くんは受け入れてくれた
それからはすごく平和だった
しかし平穏は一瞬にして失われた
安心していたのだと思う
もといた村の人間が現れた
もしかしたら彼には頼られていたのに村を捨てたことに罪悪感があったのかもしれない
彼はあいつらについていってしまった
莉犬くんはキレていた
俺たちの過去を彼が帰った理由を俺は言えなかった
そして三年、四年と月日が立ち俺たちは村を壊滅させた
莉犬くんの血を使って簡単に
戻ってきた彼はすっかりやつれて心が壊れていた
莉犬くんの血で世界を操るなんていう作戦を了承してしまうくらいには
莉犬くんはそういうけれど裏社会を作った今になっても思うのだ
なにか他の道はなかったのかと
だってこんな未来しかないなんて悲しいじゃないか
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!