“君の名前は?”
そう答えた瞬間、身動きが取れなくなった。
「何したの?」と声に出そうとしたが、声にならない。
自分の思うように体が動いてくれない、いわゆる金縛りみたいな状態である。
……これはもしかしてこの少年の「個性」なのか?
相手の動きを止める的な個性?もしかしたら意識を奪うとか?いや、この男の子の質問に答えてからだから……。
ちょっと何言ってんのかわからない。
タップダンスなんてしたことないんだけど……。
そう思ったが、体が勝手に動いて私はタップダンスをしていた。
しかもみんなこっちを向いて唖然とした顔をしている。
しばらくすると、ようやく足が止まってくれた。
さすがに私でも少々怒る。
個性「洗脳」
彼の問いかけに答えた者は洗脳スイッチが入り、彼の言いなりになってしまう。
本人にその気がなければ洗脳スイッチは入らない。
そう言って彼はほんの少しだけ、寂しそうに微笑んだ。
“君の「個性」は十分ヒーロー向きだと思うよ”
こいつ何言ってんだ?というような目で見られた。
心底不思議がっている。でも本当のことなんだよなぁ。
するとしばらくの沈黙の後、彼は急に笑い出した。
これが、雄英で私にとって初めて友達ができた瞬間だ。
「洗脳!?すごい初めて聞いた〜」「うらやましい」
「悪ィことし放題じゃん!」「ちょっと怖いね」
そりゃ俺も他人が「洗脳」なんて持ってたら、まず悪用を思いつく。犯罪者、“敵”向きだねって間接的に言われるのは慣れっこだ。
そういう世の中仕方ないとは思うよ。
もっといい使い道とかないのか?
そう言われたとき、しばらくの間何を言われたのか分からなかった。
嘘だと思った。でも、こいつの顔は大真面目だった。
しかも、
なんて言い出した。
俺は我慢できず、つい笑ってしまった。
こいつとなら友達になれるかもしれないと思った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!