カチャリと玄関の鍵かかかる音がして、後ろからほっくんの腕がまわった。ピッタリくっついた体と耳元にかかる彼の吐息が熱い。
ザラつきのない滑らかで低い声に体の芯がぶるりと震えた。ただただ心臓がうるさくて、体温を感じる顔が熱い。
首元に巻かれた腕が解かれてくるりと自分の体が回転して、
真正面から見上げる彼の顔はさっきまでの不安気で子犬のような表情なんて消え、色っぽい男の顔をしていた。
頬に触れた骨ばった手、ゆっくりと近づいた唇が触れ合った。
こんなことするのいつぶりだろうとか玄関で何してんだろうとか考えられたのは一瞬で、ぐっと腰を引き寄せられて深くなるキスにそんな邪念は飲み込まれた。
お互いに靴を脱ぎ散らかして抱き合いながらベットになだれ込んだ。乱雑にTシャツを脱ぐ姿も髪の毛をかきあげる仕草も、ただただかっこよくて
身動ぎも出来ずにぼんやりする私に、ほっくんはふっと笑ってシャツのボタンに手をかけた。
唇に落とされたキスは首、肩に降りていってその度に体が震えた。
互いに身を包むものをとっぱらって重なり合った時にはもう何にも考えられなくなっていて
自分を求めてくれる彼に身を任せて、快感に溺れながら幸福感を感じるだけだった。
そのあとの記憶はどこかぼんやりとしている
欲望を孕んだ狼のようなほっくんに押し倒されて、「もう1回」と言われて始まった2回戦の途中で私の記憶は途切れてしまった。
朝起きると、目の前にほっくんの顔があって彼の腕の中にいた。昨日の狼のような顔とは打って変わって穏やかで幼い寝顔だ。
規則正しい寝息をたてるほっくんを起こさないようにベットを抜けようとしたけど、ミシっとベット軋む音で起こしてしまった。
まだ夢見心地なのかポヤポヤしているほっくんは、私と目が合うとふにゃりと笑った。やっぱり子犬みたいだ
子犬みたい…と思ったけれど、めくれたTシャツから覗く割れた腹筋はちゃんと男の人で
それを見た瞬間昨日の情事を思い出して顔が熱くなった。
私ほっくんと寝たんだ…
もう合わないどころか一線を超えてしまっているじゃないか
自分の意思の弱さにほとほと呆れて、でも後悔してるかと言えばそうじゃなくて。
ぐちゃぐちゃまとまらない矛盾で俯いていれば、いつの間にか服を着ていたほっくんがベットの縁に腰掛けて私の手を握った。
心を読まれたような質問にギョッとして顔を上げた。直球の質問をした割に不安そうな顔で、包み込んでいた彼の手に力が込められるのを感じる。
真剣で不安げな目
その顔を見て、私の中の矛盾は消えてしまった。
私もほっくんのことが好きだ、もうその気持ちを無視したりしない。昔から本当は特別な人だった
そんな人にこんなにも真っ直ぐに好きだって言われて、求められて。
断ったりなんかしたらそれこそ後悔する。
だから
私は彼の手を握り返した
言い終わるよりも前に抱きしめられていた。耳元で「ほんとに?」とか「嬉しい」と何度も言う声は嬉しそうで、顔を見なくても満面の笑みなんだろうなって手に取るように分かる。
同じようにほっくんの背中に腕を回せば、ぎゅっと強く抱き締め返されて。
幸せな気持ちで胸がいっぱいで、私の決断は間違ってなかったと思えた。
カーテンの隙間から朝日が差し込む中、私たちはまた見つめあって笑って、キスをした。
幸福感でいっぱいの朝だった
この幸せがずっと続けばいいと願った
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!