窓の外で狂ったように鳴き喚く蝉の声が、アスファルトの白い照り返しと共に室内へ流れ込んでくる。
どこか遠い記憶の底を無理やり抉り出すような。
ひどく暴力的な暑さを孕んだ午後のことだった。
惰眠を貪った休日の昼。重い体を起こしてポストの中を覗くと、角形A3の封筒が差し込まれていた。
それを手に取ると、少しだけ重い。どうやら中身は書類ではなさそうだ。
封筒を裏返すと、隅の方に小さく、見覚えのある名前が記されていた。
「イ・△△」
久々に見たその名前に、私の呼吸は一瞬だけ乱れた。
いつぶりだろうか。彼女の存在が私の脳裏を撫ぜたのは。
イ・△△。彼女は、私のかつての婚約者――イ・サンウォンの母親だった。
私は、湿り気を帯びた空気の中で、その名前を指でなぞった。
三年前。ごく普通の青年だった二十五歳のサンウォンは、不慮の事故によって、その魂のほとんどを失った。
一命は取り留めたものの、彼を形作っていた緻密な歯車は、その日を境に音を立てて崩れ去ってしまった。
彼の知能は七歳まで退行し、私と共に積み上げてきた愛おしい日々の記憶も、彼が歩むはずだった未来も、すべては陽炎の向こう側へと溶けて消えてしまった。
震える手で封を切ると、そこには便箋と、湿気を含んでページの天が小さく波打ったノートが入っていた。
「お久しぶりです。お元気ですか?〇〇ちゃんと最後に顔を合わせてから、だいぶ経ちましたね。
サンウォンは今、実家の方で穏やかに過ごしています。
あれから少しずつ、自分のこともできるようになりました。
先日、あの子の当時の荷物を整理していたら、このノートが出てきました。
病院で、リハビリのために書いていた日記だそうです。
サンウォンに見せてみたけれど、あの子は不思議そうに首をかしげるだけでした。
けれど、これはあの子が一生懸命に生きていた記録です。
あなたが持っていてあげてほしい。」
便箋の一枚目を読み終わる頃には、私の手は少しだけ震えていた。
三年前、私はサンウォンの前から姿を消した。
彼がそうしてほしいと言ったからだ。
『お姉さんと遊ぶの、もう飽きちゃったから』
震える手で私の体を押し返し、目に涙を溜めながら下手な嘘をついたあの日のサンウォンの瞳が、熱い陽光に焼かれた視界の端で鮮明に蘇る。
喉の奥が、焼けるように熱い。
私は便箋を置き、一緒に封筒に入っていたノートを手に取った。
表紙には、拙い字で『日き 1ねん2くみ イ・サンウォン』と書かれている。
私は、止まってしまった三年前の時計の針を動かすように、静かに、ページをめくった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。