眠たげな目の奥だけが、妙に真剣だった。
胸のあたりが少し熱くなる。
だけど、その熱を冷やすように——
ふと、頭の奥底から
聞きたくもない声が浮かんでくる。
__「あなたの下の名前、お前はヒーローなんか向いてねぇよ」
__「やる気だけでどうにかなる世界じゃねぇんだよ」
__「死ぬのがオチだ。ヒーローなんか諦めろ」
冷たい声だった。
いつも酒臭くて、ため息混じりで、
“諦めさせるための言葉しか言わなかった”父の声。
その声でハッと現実に戻る。
父の声はまだ耳の奥に残っている。
__どうせお前はヒーローになれない。
相澤先生が、ゆっくりと言葉を重ねる。
その一言だけが、
父の声よりも強く胸に響いた。
立ち上がった瞬間、さっきまでの会話が胸の奥でじんわり残る。
その言葉は確かに温かいのに、
頭の奥ではまだ、父の声が小さく刺さっている。
__「どうせお前は向いてねぇよ」
無意識に拳をぎゅっと握る。
仮眠室を出て、長い廊下を歩く。
外の空気が肺に入ると、少しだけ気持ちが落ち着いた。
校門に近づくと——
いつも通りの低い声。
けど、腕組みしたまま真正面からこっちを見てきた。
いつもと同じテンションで返したつもりだった。
けど、心操の目が細くなる
言おうとした瞬間、胸の奥がざわりと揺れた。
言い返しながらも——
ほんの少し、心が軽くなる。
心操はふっと視線をそらす。
図星を突かれすぎて、思わず肩が跳ねる。
静かな声。
だけど、否定も押しつけもしてこない。
言いかけて、言葉が喉に引っかかる。
(ヒーローなんか向いてねぇよ)
少し強めに言ってしまう。
自分でもびっくりするくらい。
心操は眉を寄せたあと、小さく息をついた。
胸が、ぎゅっと痛くなる。
その言葉は、
父の声よりずっと、ずっと強かった。
あなたの下の名前 は思わず顔をそむける。
少し笑いが漏れた。
酷い一日だったはずなのに
心操の横顔を見たら、
ほんの少し、歩くのが楽になった気がした。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。