前の話
一覧へ
次の話

第2話

❄️
34
2025/11/25 16:21 更新
相澤消太
編入は強制じゃない。ただ——“お前ならできる”と思って声をかけている



眠たげな目の奥だけが、妙に真剣だった。



あなた
(……なんでそんなに言ってくれるの?)



胸のあたりが少し熱くなる。
だけど、その熱を冷やすように——


ふと、頭の奥底から
聞きたくもない声が浮かんでくる。





__「あなたの下の名前、お前はヒーローなんか向いてねぇよ」

__「やる気だけでどうにかなる世界じゃねぇんだよ」

__「死ぬのがオチだ。ヒーローなんか諦めろ」




冷たい声だった。
いつも酒臭くて、ため息混じりで、
“諦めさせるための言葉しか言わなかった”父の声。





あなた
(……なんで、今思い出すの)

相澤消太
燈雪?



その声でハッと現実に戻る。



あなた
ッ、あ、えっと……

相澤消太
顔色が悪い。無理に答えを出さなくていい

あなた
……はい……




父の声はまだ耳の奥に残っている。




__どうせお前はヒーローになれない。





あなた
(……そんなの、わかってるよ)


あなた
(私なんかがヒーローなんて。そんな大層なもんになれるわけ——)


相澤消太
だがな



相澤先生が、ゆっくりと言葉を重ねる。


相澤消太
“向いてるか向いてないか”を決めるのは他人じゃない。お前自身だろ

あなた
……!


その一言だけが、
父の声よりも強く胸に響いた。




相澤消太
……今日はもう行っていい。無理に考え込むな。答えはゆっくりでいい

あなた
……はーい



立ち上がった瞬間、さっきまでの会話が胸の奥でじんわり残る。



あなた
(向いてるか向いてないか決めるのは……私……?)





その言葉は確かに温かいのに、
頭の奥ではまだ、父の声が小さく刺さっている。




__「どうせお前は向いてねぇよ」






あなた
(……うるさい)






無意識に拳をぎゅっと握る。




仮眠室を出て、長い廊下を歩く。
外の空気が肺に入ると、少しだけ気持ちが落ち着いた。






校門に近づくと——








心操人使
……遅い



いつも通りの低い声。
けど、腕組みしたまま真正面からこっちを見てきた。




あなた
ごめんごめん〜。ちょっと長引いちゃって




いつもと同じテンションで返したつもりだった。
けど、心操の目が細くなる




心操人使
……で、何言われたんだよ。相澤先生に

あなた
え?あー……その……






言おうとした瞬間、胸の奥がざわりと揺れた。

















相澤消太
『ヒーロー科に……興味は無いのか?』
相澤消太
『……お前だから出来ることもある』










あなた
(そんなの、簡単に返事できるわけないじゃんか……)

心操人使
ねぇ

あなた
……ん?

心操人使
顔が死んでる。隠すの下手だな

あなた
はー!?誰が死んでるって!?

心操人使
図星かよ

あなた
うるさいなぁ〜もう!




言い返しながらも——
ほんの少し、心が軽くなる。




心操はふっと視線をそらす。





心操人使
……ヒーロー科、来いって言われたんだろ?

あなた
ッ、……!




図星を突かれすぎて、思わず肩が跳ねる。




心操人使
だろうな。お前の個性なら絶対声かけられると思った

あなた
……心操だって…向いてるじゃん〜。私より全然〜……

心操人使
俺の話はいい。今は燈雪の話だ。



静かな声。
だけど、否定も押しつけもしてこない。




あなた
……私さ〜……





言いかけて、言葉が喉に引っかかる。



(ヒーローなんか向いてねぇよ)




あなた
……やっぱなんでもなーい

心操人使
はぁ?なんでもなくないでしょ

あなた
なんでもないったらなんでもないの!




少し強めに言ってしまう。
自分でもびっくりするくらい。




心操は眉を寄せたあと、小さく息をついた。





心操人使
……話したくないならいいよ。でもさ

あなた
……?

心操人使
“誰かの言葉”で自分の未来決めんの、ダサいぞ

あなた
……ッ!!




胸が、ぎゅっと痛くなる。




心操人使
燈雪がどうしたいか。それだけでいいだろ



その言葉は、



父の声よりずっと、ずっと強かった。





あなた
……やだなぁ……もうやめてよ〜…



あなたの下の名前 は思わず顔をそむける。




心操人使
帰るよ。マック行くんだろ?

あなた
えっ、さっき嫌だって言ったじゃん

心操人使
……今は行ってやるよ。奢れよ

あなた
なんで私が!?!?

心操人使
話聞いてやるんだから当然だろ

あなた
聞く気満々じゃん……!




少し笑いが漏れた。



酷い一日だったはずなのに
心操の横顔を見たら、
ほんの少し、歩くのが楽になった気がした。





プリ小説オーディオドラマ