川の近くの温泉。
旦那様が着流しを抜いたので、私はパッと顔を逸らす。
久しぶりの旦那様だ。
ただでさえいっぱいいっぱいなのに、裸まで見せられるとどうしていいか分からない。
それに、夜の方は……
顔から耳まで熱くなる。
旦那様と居ると調子が狂う。
いつもの私はこんなでは無い。
旦那様や奥様は愛情表現が豊かな方達だ。
思った事をすぐに伝えてくださる。
なので、冷静を保っていられない。
旦那様は残念そうに唇を尖らせて、温泉に入った。
私は、少しはしたないが着物を捲り、岩場に座って足を入れる。
旦那様は私の足の横に座り、私の足に触れた。
すると、旦那様は足に唇を落とした。
少し眉を下げて、見上げてくる。
角度的に自然と上目遣いになっている。
この顔に弱い事を知っていてやってますね……?
すると、嬉しそうに旦那様は私の足を触り始めた。
私に向き合うように座り、私の足をまじまじと見ている。
なんだか気恥ずかしくなり、私は当たりを包んでいる霧に目を向ける。
旦那様は私の足の指に、自身の指を絡めたり、足裏を愛おしそうに親指で撫でたり、指先に唇を落としたり。
見なくても頭に旦那様が今、どんな顔をしているのかが容易く思い浮かべられてしまう。
旦那様が声を出したので、目を向けると、河童様が居た。
河童様は笑った。
私はハッとする。
今、旦那様は私の足に唇を落としていた。
……この状況は…………色々と誤解を招くのでは。
そう言って河童様は優しく笑った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。