第7話

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2024/02/24 03:05
(なまえ)
あなた
ッそうだ、旦那様
旦那様は温泉がお好きでしたよね?
この変な空気を変えようと、話題を逸らす。
ゲゲ郎
うむ
(なまえ)
あなた
少し歩きますが……
良い温泉があるのです
ゲゲ郎
そうか、では後で案内しとくれ
(なまえ)
あなた
後で、ですか?
意外だ。

今すぐにでも行きたいと言ってくださると思ったのに。

思っている事か顔に出ていたのだろうか、旦那様は察して言った。
ゲゲ郎
もう少しこうして居たいんじゃ……
長い間、わしはずっと岩子とあなたを
探しておった……
もう少しだけお前を感じさせとくれ
今、わしの目の前に居ると……
旦那様は私を膝の上で横を向くように座らせ、私を抱き締めて肩口に顔を埋めた。
(なまえ)
あなた
……どうして怒らないのですか
私は顔を俯かせて言った。
(なまえ)
あなた
どうして怒って下さらないのですか
どうして恨んで下さらないのですか
お前のせいだと……奥様を返せと
どうして責めて下さらないのですか
ゲゲ郎
あなた……
(なまえ)
あなた
私は私が許せません
私がお傍に居ながら、奥様を
守ることが出来なかった……
助けられなかったッ…………
それだけじゃ飽き足らず、簡単に人間に奥様を奪われてしまった。
ゲゲ郎
……わしは責めたりせんよ
(なまえ)
あなた
どうしてですか……!
ゲゲ郎
わしが来るまで、あなたも
充分苦しんだからじゃ
わしが来るのが遅くなったせいで
あなたを長く苦しめてしまった
それに、と旦那様は笑った。
ゲゲ郎
お主の事じゃ………
自分の最大限の力を出して
最後まで岩子を守ろうとしたはずじゃ
しかし岩子はそれを許さなかった……
それはその場に居なかったわしでも
断言出来ること…その場に居なくても
わしには分かる事じゃ
お主を責めたらわしが岩子に怒られる
そして、岩子が居なくなったのは
お主のせいじゃない、人間のせいじゃ
お主を恨むのはお門違いじゃよ
(なまえ)
あなた
……旦那様は私に甘過ぎます
もう少し厳しくしてください
ゲゲ郎
それは無理なお願いじゃ
旦那様は、私の肩口にもう一度顔を埋めた。
ゲゲ郎
お主に会えたという事は
岩子もこの村に居るということ
お主が無事だっただけでも
今は一安心、としか言えん
(なまえ)
あなた
そんな……私の事など……
奥様を優先してください
ゲゲ郎
岩子もお主もわしにとって大切じゃ
(なまえ)
あなた
…………何かあれば私をお使いください
盾にでも武器にでもなりましょう
ゲゲ郎
あなた
(なまえ)
あなた
必ず、私よりも奥様を優先して下さい
…元よりそのつもりかもしれませんが
旦那様は……お優しい方なので
私は笑う。
(なまえ)
あなた
何かあった時、気に病まないで下さい
私は……旦那様と奥様の幸せを
一番に願っておりま___
突然、旦那様の顔が視界に埋まった。
(なまえ)
あなた
ッ!?んぅッ……
旦那様が私の口を塞いだ。

胸板を押して逃げようとするが、後頭部を掴まれ、逃げられない。

ぬるりと旦那様の長い舌が口内へ入ってくる。

私の舌と旦那様の舌が絡まる。

苦しいやら恥ずかしいやらで、涙が出てくる。
(なまえ)
あなた
んッ…んぅ……ッ、は、
旦那様は唇を離す。
ゲゲ郎
わしと岩子の幸せはお主抜きでは
成り立たない……
何度も言い聞かせているはずじゃが
旦那様はスッと目を細める。
ゲゲ郎
まだ分かっておらんようじゃのぅ……
嫌という程、言い聞かせて、お主も
分かったと言っておったはずじゃが
…………なぁ、あなた?
岩子は居らんがわし一人でお主に
教え込むことくらい容易いが……
どうする?
旦那様の目が、夜の行為の時のように熱を孕んでいる。
(なまえ)
あなた
わ、分かりました……
もういいませんので……
どうかお許し下さい……
ゲゲ郎
……ふむ、今は岩子の方が先じゃな
旦那様の目はいつもの目に戻った。

良かった……。
(なまえ)
あなた
外が明るくなってきましたね……
温泉に案内させて頂いても?
ゲゲ郎
うむ
……と、その前に、じゃ
旦那様は水木様の布団を引き摺り、牢の中へ入れた。
ゲゲ郎
これくらいしてもよかろう
(なまえ)
あなた
そうですね
……では参りましょう
私が階段へ向かうと、旦那様は私の二の腕を掴んだ。
(なまえ)
あなた
?だん___
ゲゲ郎
わしはまだ許しとらんからな
……岩子を見つけたら、岩子と共に
たっぷりと教え込んでやるからの
覚悟を決めておくんじゃぞ?あなた
そう言って旦那様は私を追い抜かして、階段を降りていった。

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