(微ピンク)
水木様の寝息が聞こえる。
私は相変わらず、旦那様に背を向けたまま、今はもう消えた蝋燭の傍で正座をしていた。
私は振り返る。
……蝋燭の灯りがない。
顔は見えにくいだろう。
私は狐だ、夜目は効く。
……旦那様からの命令は背けない。
私は牢の側へ行き、南京錠に手をかける。
その時、旦那様は牢の柵の隙間から手を伸ばし、私の腕を掴んだ。
旦那様は私の腕を掴んだまま、自分で南京錠を開けた。
そして、牢から出た。
……可笑しいと思った。
旦那様ならこんな牢、1人で開けられる。
旦那様は私の腕を離した。
私は直ぐに蝋燭の側に行き、正座をして旦那様に背を向ける。
いいえ、人違いではありません。
私は……私は……ッ
言ってから口を抑える。
しまった……!
その瞬間、後ろから抱き締められる。
苦しいくらいに抱き締められる。
あまりの嬉しさに、耳が出てしまう。
旦那様の腕の中で向き合う。
もう一度抱き締めてくれた旦那様の背に、右手を回す。
旦那様が無くなった左腕をなぞるように、着物の袖を撫でる。
旦那様は左の袖を捲り、私の左腕を触る。
旦那様は私の左腕の切断部分に唇を落とす。
……楽しいだろうか。
すると、特に反応を示さなかったのが面白くなかったのか、旦那様は目を細めて、私の耳を指で撫でた。
ぐっと下腹部を押される。
旦那様は私の耳に口を寄せた。
そして……
耳に旦那様の声がした途端、身体が熱くなる。
み、耳から入ってッ……!?
耳から旦那様の霊力が入ってくる。
じわじわと、何かを探るように身体中を駆け巡る旦那様の霊力。
そして、霊力が出ていった。
意地悪そうに笑った旦那様は、きっと全てを見抜いている。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。