第6話

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2024/02/23 01:00
(微ピンク)







水木様の寝息が聞こえる。

私は相変わらず、旦那様に背を向けたまま、今はもう消えた蝋燭の傍で正座をしていた。
ゲゲ郎
そこの者……あなたと言ったか
私は振り返る。

……蝋燭の灯りがない。

顔は見えにくいだろう。

私は狐だ、夜目は効く。
(なまえ)
あなた
……はい、なんですか
ゲゲ郎
此処を開けとくれ
……旦那様からの命令は背けない。

私は牢の側へ行き、南京錠に手をかける。

その時、旦那様は牢の柵の隙間から手を伸ばし、私の腕を掴んだ。
(なまえ)
あなた
旦那様は私の腕を掴んだまま、自分で南京錠を開けた。

そして、牢から出た。

……可笑しいと思った。

旦那様ならこんな牢、1人で開けられる。
ゲゲ郎
お主、やはりあなたじゃな?
(なまえ)
あなた
………………………………
ゲゲ郎
ふむ……人違いか
旦那様は私の腕を離した。

私は直ぐに蝋燭の側に行き、正座をして旦那様に背を向ける。

いいえ、人違いではありません。

私は……私は……ッ
ゲゲ郎
もう何年も会えとらん
わしの顔を忘れても可笑しくはない
(なまえ)
あなた
ッ、私がッ!旦那様のお顔を
忘れるなんて有り得ませんッ
言ってから口を抑える。

しまった……!

その瞬間、後ろから抱き締められる。
ゲゲ郎
やはりあなたか……
無事で良かったッ……
苦しいくらいに抱き締められる。
ゲゲ郎
会いたかったぞ、あなた
(なまえ)
あなた
ッ……私も……会いたかったですッ……
あまりの嬉しさに、耳が出てしまう。
ゲゲ郎
そのくせも直ってないのぅ
(なまえ)
あなた
す、すみません……
旦那様の腕の中で向き合う。

もう一度抱き締めてくれた旦那様の背に、右手を回す。
ゲゲ郎
……?お主、腕はどうした?
(なまえ)
あなた
旦那様が無くなった左腕をなぞるように、着物の袖を撫でる。
(なまえ)
あなた
ぁ、ぅ、それは…………
ゲゲ郎
……何か事情があるようじゃの
無理には聞かん
ただ、話せるようになったら
教えてくれ
(なまえ)
あなた
……はい、申し訳ありません…………
ゲゲ郎
しかし、酷い事をされたのぉ……
旦那様は左の袖を捲り、私の左腕を触る。
(なまえ)
あなた
ッん
ゲゲ郎
なんじゃ、痛かったか!?
(なまえ)
あなた
い、いえ、そうではなく……
斬り落とされてから敏感で……
その、こそばゆいです……
ゲゲ郎
そうか……
旦那様は私の左腕の切断部分に唇を落とす。

……楽しいだろうか。

すると、特に反応を示さなかったのが面白くなかったのか、旦那様は目を細めて、私の耳を指で撫でた。
(なまえ)
あなた
ッひっ
ゲゲ郎
そうじゃの……暫く離れておったから
感覚を忘れたか……?
(なまえ)
あなた
え、なんの、ことで…………
ゲゲ郎
ふむ…………胎の中のわしの霊力も
すっかり消えてしまっておる
ぐっと下腹部を押される。
(なまえ)
あなた
ぁッ
ゲゲ郎
……ここにくるまで
何か変わったことはあったか?
(なまえ)
あなた
……悪い氣にあてられた妖怪が
何度か私の身体を乗っ取ろうと…………
ゲゲ郎
そうか……
旦那様は私の耳に口を寄せた。
ゲゲ郎
あまり大きな声を出してはいかんぞ
そして……
(なまえ)
あなた
ッ!?
耳に旦那様の声がした途端、身体が熱くなる。

み、耳から入ってッ……!?

耳から旦那様の霊力が入ってくる。
(なまえ)
あなた
んッ、ふ、ひぁッ……
じわじわと、何かを探るように身体中を駆け巡る旦那様の霊力。

そして、霊力が出ていった。
ゲゲ郎
ふむ、身体の中には特に何も
なさそうじゃの
(なまえ)
あなた
そ、それはッ
良かった、ですッ
ゲゲ郎
……どうした?
耳が出ておるぞ
意地悪そうに笑った旦那様は、きっと全てを見抜いている。

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