第2話

満月の、キス。[KISSes@Full-Moon]
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2025/01/03 20:24 更新
ある晴れた日、吸血鬼の俺は、たまたま廃墟の教会を散策していた神父・きりやんに出会った。

ともすれば天敵同士の関係だけど、ふたりで空を飛んだり、沢山しゃべって盛り上がる内に、打ち解けて……

俺の方は、あれから彼の笑顔を思い出すたび、勝手に胸が熱くなる。


………だけど、その後。

何度となく、廃墟の教会に通ったが、一度も彼には会えなかった。

それはそうか。

羽のある吸血鬼オレとは違うのだ。

あの日も確か、かなりの重装備だったし、彼は神父の仕事もあるだろうし。

こんな森の奥深く、早々訪れるという訳にはいかないだろう。



「……会いたいなぁ」



もう一度。
もう一度、きりやんに。
彼に出会ったあの日のことを、色々思い返していたら、ふと、俺の頭に、きりやんの一言が蘇る。


『あ、俺の教会!あの小さい十字架の塔、ほら、あそこ!』


………………!!

俺はガバッと起き上がる。


そうだ!

確かに俺たちは、上空から、はるか遠くの教会を見た。

あの時、確かに、彼は言った。
『俺の教会』って。

俺は棲家すみかを飛び出して、彼と初めて会った廃墟へ向かう。

日当たりの良い丘の、古い、古い教会。

そして彼を抱きしめて飛んだ、同じ場所で、同じ高さまで飛んでみる。

「……………見えた……!」

はるか遠く。

あの日と同じ光景の中、彼が言った『俺の教会』の十字架が、同じように、小さく小さく、見えている。


もしかして、また会える……?


そう思ったら、居てもたってもいられない。

ちょうど陽が傾いて、夜へと近づく、夕暮れ。

夜の眷属けんぞく吸血鬼ヴァンパイアにとっては、むしろ都合の良い時間帯。

俺は、彼がカッコいいと褒めてくれた闇色の羽を広げて。

黄昏たそがれの空を、彼の言う小さな教会へ向かって、飛んだ。
村はずれ。

森と村との境に、その教会はあった。


森のきわで空から降りて、人目がないのを確認しながら、歩いて敷地に近付くと。

教会の同じ敷地に、小さな家。……多分、あれが神父の住居。

住居の横に、小さな畑。

きりやんが育てているのか、色々な作物が、実ってる。

そして、更に、倉庫のような、なんだか不思議な作業場もあった。
ドアの立て札には、『Dr.ドクターきりやん研究所ラボ』…………???

アイツ、多趣味……か?



ドアベルを鳴らすと、

「はぁーーーい!」

中から、声が聞こえた。

間違いない、きりやんの声。

穏やかで明るい、はーい、の声。


「……きんとき!?!!」

彼はまた、真ん丸な瞳で俺を見た。

「……こ、こんばんは。……」

「……え、どうして、ここが……?」

「近くまで飛んだんで、ついでに……。」
大嘘だ。
『ついで』なんかじゃない。会いたくて、わざわざ飛んで来たくせに。


「こないだ一緒に飛んだとき、空の上から、『あれが俺の教会』って言ってたじゃん?
このあたりかなと思って。
十字架の屋根があるから、分かりやすかったよ」

きりやんは俺の説明にうなづいた。

「スゲー。確かに俺、そんなこと、言ったかも!
それにしても、良くわかったな。どうぞ」

やっぱ吸血鬼ってすげーんだな、だって。

「いやいや、十字架ついてる教会なんて、かなり目立つよ?」

「そりゃ、そーかぁ」


会いたかった人に会えて、じわじわ頬が熱くなる。

重装備じゃないきりやんは、神父の装束しょうぞくをまとっていて、黒地に金糸のそれは、彼にとても良く似合っていた。
 
きりやんは、教会と同じ敷地の小さな家に、ひとりで暮らしていると言った。

友達も多いし、信者さんが来ることもあるから、来訪者には慣れているそうで。


すぐ隣の研究所ラボは、趣味で作ったもので、発明品や自動装置が置いてある。

良かったら今度説明するよと、彼は笑った。


彼の食卓の、木のテーブルに、あの日と同じように料理が並んでいる。

俺に夕飯までごちそうしてくれて、俺たちは、またたくさん話した。





その日から、俺は何度も、きりやんの小さな教会兼、自宅兼、更に離れのラボに通った。

昼間は人目もあるので、日が暮れて、俺の飛ぶ姿が目立たなくなってから。

近くの森まで飛んで、そこから羽をしまい、普通のヒトの振りをして、歩いて教会の裏門をくぐる。


毎日、顔が見たいし、今日は何してたのか気になるし。

楽しそうな瞳と、楽しそうな声が、ちょっとでも俺の方を向いてくれれば、嬉しかった。




…………こうなるともう、自分の気持ちを認めざるを得ない。




俺は完全に、彼にかれていた。



とはいえ、きりやんはニブすぎて、いまいち気が付いてなさげ。

俺は来訪者お客さんの中の、ひとり。

ヒマだから来てるって、思ってそうだ。

まぁ、いいけどね。こんな風に会えれば。



そんなことを続けて、しばらくった、ある満月の夜。
「こんばんは」

いつものように、カラン、とドアベルを鳴らすと、すぐにドアが開く。

「きんとき!もしかして来るか?って思ってた」

人懐ひとなつこい、笑顔。

俺の顔を見た瞬間、ちょっと照れ気味に喜んだように見えたのは、気のせいか?


「これ、差し入れ。屋敷の酒蔵ワインセラーに眠ってた古酒。」

年季の入った瓶を差し出すと、彼は興味津々に受け取った。

「え、何それ、スゲー!うまそうな酒、ありがとう」

「いや、別に。俺は酒が飲めないゲコだし。あげるよ」

「めっちゃくちゃ高そう!」

「おいしいかは、知らん」

早速、さかづきに注ぎ出すきりやん。

「うわ、何これ、めちゃくちゃ美味しいよ!
何年熟成したんだ?まろやか~!」

嬉しそうな声に、こちらまで嬉しくなる。

「満月だから、屋根の上で飲む?」

「そんなこと出来んのー!?」

「空から飛んで来てるんだから、屋根なんて簡単だよ」


きりやんは、お酒とさかづきを持っていて、両手が塞がっているので、俺に抱きつく訳にはいかない。
なので、ヒメ抱っこ。

重力キャンセルで軽々と横抱きにして、いま一体どんな表情してるんだろうと彼を見たら、『わくわく♪』って顔に書いてある。

……か、かわいい!お前!いつにも増して、素直で、正直。

反則なほどカワイイじゃないか!


軽く羽ばたくと、屋根の上へ舞い上がった。

酒瓶が置ける平らな場所を見つけて、きりやんを降ろし、俺も隣に腰掛ける。

「屋根の上で月見酒なんて、最高だなー。きんとき、ありがとう」

「おいおい、神父さん。飲みすぎると酔うよ?」

「らーいじょーぶー」

いやいや、君、もうすでに口調があやしいよ。

俺の心配をよそに、美味しい美味しい、と飲み続ける、きりやん。


くぴくぴと酒を進めるきりやんの気配を隣に感じながら、しばらく月を眺めていると。

ふいにぐらりと重みを感じて、きりやんが俺にもたれかかった。

「……あれ、ちょっと。おい!きりやん、飲み過ぎ!」

「急に、酔いが回っれきたー……」

きりやんの手から、カラさかづきが滑り落ちた。

「お……っ、と。あぶないって、」

屋根から滑り落ちる前にそれを受け止めて、そばに置く。

ゆらゆら不安定な彼を、支えてやって、顔を見る。

酔いが回って、ほんのり赤く上気した頬の彼は、普段の100倍、可愛い。



俺の中で、何かがはじけた。



「……きりやん」


油断しきったきりやん。




「………………キスしていい?」


「……んぇ……?」




とろん、とした瞳が俺の瞳を覗き込んだ。

そのまま顔を近付けて、彼の唇に、俺のを、重ねた。


「……ん………っ、」


柔らかい唇の感触。ごく微量の、酒の味。


「……んん、……んぅ」


ぎゅっと抱きしめる。



……嫌がってないよな……?

薄目うすめを開けると、きりやんは気持ち良さそうに目を閉じて、俺のキスを受け入れている。

酔いが回ってる?酒がうまかった?

それとも、ちょっとは俺の事、好きだと思ってくれてるのか。




頭上には、大きな満月。


村はずれの教会の、屋根の上。


漆黒の羽を広げた吸血鬼が、聖なる神父にキスをする。



強く噛み付くように、あるいは、優しく愛撫あいぶするように。

舌をからめて、何度も、何度も、唇を合わせる。


俺の気持ちを、分かっているのか、いないのか……。


酔いの回ったきりやんが、俺の腕の中で、完全に眠ってしまうまで。




俺は彼を、離さなかった。








そして。
不穏ふおんな嵐の、ぶ厚い暗雲が、少しずつ空を侵食していた。




続く
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