「今日は転校生の方が来ていますー」
ここが山名川中学校。
何だか、温かい雰囲気がする…
…あれ、あの子は…?
…萌花ちゃん…
…わかった
待ってて、蒼空くん、萌花ちゃん。
そして、りく。
今全部終わらせるからー
ボクは、山名川中学が見える小高い丘に立っていた。
あの後、大統領に1つだけお願いした。
そして…
…それは、叶えられた。
スマホを見る。
イジメによる自殺を日本政府が隠蔽していた。
悪質な事情聴取を行っていた記者が暗殺され続けている。
日本政府の信用はだだ下がり。
やっぱ、罰なしはおかしいもんな。
これは、もう単純に、璃空がどうのこうのとかじゃなくて、ボクの自己満足だ。
ふと、あるニュースを見た。
イジメ・差別をテーマにした劇
発案者の廣妙寺りおなさん(9)曰く
「私達に責任がある。
それをほっぽかしていいわけがない。
だからといって復讐に変えるのは間違いだ。
だから、伝えなければいけないんだ。」
…そういう人もいたか。
やっぱ、日本人みんな悪はおかしいよね。
そうだ…
相川紫音。
麻生咲希。
遠藤敬佑。
小野拓哉。
貝原玲奈。
木更津蓮。
西条仁。
富山翔子。
中木創。
花田日向。
花田光莉。
藤咲秋人。
矢部葉太…
こいつら、何も悪くないのに巻き込んだよな。
じゃあ… …償わなきゃ。
償ったところで許されるか分からない。
「ひとつ」で、足りるもんか。
でも、
でも…
お前らが奪ったのは璃空一人の命…
なわけ、ないだろ。
お前らは隠れた所でいくつものイジメを行い、その分命を傷つけている。
じゃあ、これで、おあいこだな。
お前らが償ったのは一人だけの命。
じゃあ…ボクだって、1つの命しか償いに使わない。
誰の命かって?
そんなの…
…
…
わかりきった、ことじゃないか?
ヘアピンを外した。
璃空の形見のヘアピンだ。
これで、いつまでも一緒だね。
大好きな、おねえちゃん。
ブスッー
黒く光ったヘアピンを思い切り脳天に突き立てた。
ブシャ、ブシャー、と勢いよく鮮血が流れる。
これで大丈夫。
ボクの死体なんて見つからなくていい。
でも、犯人がわかならない、なんてことはないから大丈夫。
犯人を書いた遺書を残しといたよ?
意識が薄れる。
視界の四方が白くブチンと爆ぜる。
ボク白々しい手に赤い赤い赤い血がふっかかる。
コントラストが美しい。
今、非常に眠たい。
寝る気なんてサラサラないのに、瞼が鉛のように重くなる。
そもそも、死ぬのなんて、こんな長くゆっくりなのかな?
そんなのどうでもいい。
ピジュッ、と切れ口から何かが飛び出した。
ああ、なんだ、脳味噌か。
自分の体内を直視しているのに、不安は感じなかった。
なんかもう、どうせ自分のだし?
体が重い。
光がしつこいくらい眩しくて、ボクには到底たどり着けない。
一緒に合唱大会でデュエットしたときも。
体育会で負傷した貴女を支えて水場に行ったのも。
宿題を忘れて、貴女も忘れていて、2人で泣きながら、終わらないよ〜、助けてよ〜、と言いながら、居残りしたことも。
そうだ…
移動教室さえも、楽しかったんだ。
…それに…
貴女が航平好きなことくらい知ってる。
だから、ボクには思うしか無い。
今、初めて、女で生まれればよかったと思った。
そしたら、「友達」として、嫉妬せずに愛せたのに。
すべての感覚、空気、触感、思考を失った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。