そう言って気まずそうに笑うあなたの幼馴染。
「あなたの幼馴染くんは知ってたの?」
そう聞いてしまいたくなるのをぐっと飲み込む。
いくら私が恋愛初心者とはいえ、
あなたの推しの親友であるあなたの幼馴染を問いただすのが
野暮なことくらい、わかっている。
膝に置いた手をギュッと握って小さく呟く。
私の言葉に対して、あなたの幼馴染は考えるように
「うーん」と唸った。
それは、あなたの推しにも言われた言葉──。
あなたの幼馴染の問いかけに、私は首を小さく横に振った。
そう言ったあなたの幼馴染は、ひょい、と
階段から立ち上がって私を見下ろした。
あなたの幼馴染の影が私の上に落ちて、すっぽりと覆い隠す。
あなたの幼馴染はいつかみたいに、
ニッと笑って親指を立てた。
薄暗い踊り場でも、あなたの幼馴染の
人懐っこい笑顔は太陽のように私を照らす。
その温かい笑みが私の凍てついた心を
溶かしていくみたいだった。
…そっか。
あなたの推しに好きな人がいるからって、
無理に“好き”をやめる必要はないんだ。
そうしてやっと、私は息をつけた。
それは、あなたの幼馴染への宣言にみせかけた、
自分自身への誓い。
くしゃ、と笑ったあなたの幼馴染が
私の肩をポンポンと叩いた。
その手の温かさはさっきのあなたの推しの手とは違う、
私の背中をそっと押すようなぬくもりだった。
そしてあなたの幼馴染は、私の肩に温かい余韻と
この言葉を残して先に教室に戻っていった。
だから、私はあなたの幼馴染の言葉に甘えて
少し頭を整理してから教室に戻ることにした。
あなたの幼馴染がいなくなった階段の踊り場で、
廊下の方から聞こえてくる楽しそうな声を聞きながら
体を折るように膝の上に顔を隠す。
ようやく頭の中でぐるぐる渦巻いていた
言葉にならない感情が静まっていく。
…そっかあ。
あなたの推しの話でクラスはもちきり…か。
そうだよね。
あなたの推しに興味がなかった頃の私でさえ、
あなたの推しの告白への返事が
「恋愛に興味がないから」
だということを知っていた。
…なのに「好きな人がいるから」なんて返したら
大騒ぎになるに決まっている。
そのあなたの推しの“好きな人”って誰だろう──
そう考えかけて、思考を振り払うように首を振った。
「もっとあなたの推しのことを見るといいよ。
アイツが誰を大切にしたいと思ってるか、
わかるから。」
変わりにあなたの幼馴染の言葉を思い返す。
あなたの幼馴染がそう言うってことは、
あなたの幼馴染はやっぱりあなたの推しの好きな人を
知っているのかな。
しかも、あなたの推しを見ていたらわかるくらい、
わかりやすいの…?
私ははあ、と大きく息を吐いた。
…だめだ、切り替えなきゃ。
明日は文化祭当日──。
明日はもちろん、今日も放課後には
ミーティングがある。
嫌でもあなたの推しと一緒にいる時間が長くなる。
私があなたの推しのことを変に意識したりしたら、
文化祭の運営に支障が出る…。
だから今は、あなたの推しに好きな人がいることも、
背中に感じたあなたの推しの体温も、一度忘れよう。
文化祭が終わったら、もう一回ちゃんと考えよう。
私は階段から立ち上がり、
制服のスカートをサッと払った。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。