ミーティングはいつもより
緊張した雰囲気で進んでいった。
ステージのタイムテーブルや、
各班の当日の動きを念入りに確認していく。
自分たちの持ち場の確認が終わり、小さく息をついた。
情報量が多くて頭がパンクしそう……。
他の班の持ち場の話を聞きながら
視線だけでちらりとあなたの推しを見ると、
あなたの推しはじっとタイムテーブルが
印刷されたプリントを見据えていた。
その真剣な横顔に、ドキッとする。
授業中はいつもあなたの推しの背中しか見えないから、
横顔をこうして見るのは新鮮な気がした。
あなたの推しの整った横顔を見ていると、
あなたの幼馴染の「もっとあなたの推しを見てみて」
という言葉を思い出した。
「アイツが誰を大切にしたいと思っているか、
わかるから」
あなたの幼馴染はそう言った。
つまり、あなたの推しの視線を追っていれば、
あなたの推しの好きな人がわかる……ということ?
途端にあなたの推しの視線の先が気になった。
あなたの推しの視線は相変わらず
プリントに注がれていて
密かにホッと胸をなでおろす。
……よかった。
やっぱり、あなたの推しの瞳に
“誰か”が映るのは見たくない。
その“誰か”が私じゃないなら、
私はずっと、知らないままでいたい。
だから私は、
あなたの推し視線の先を見てしまわないように
目線をプリントに戻した。
◇◇◇
窓の外が薄暗くなってきた頃、
ようやくミーティングはお開きとなった。
だけどその後、男子だけが先生に呼ばれて集められた。
このあともう少しだけ今日中に終わらせないと
いけない作業が残っているらしい。
しかし思ったより暗い時間になってしまったため、
防犯に考慮して女子は先に帰ることになった。
通学カバンを肩に掛けて、
教室を出る間際にちらりとあなたの推しを見た。
あなたの推しはいつもの表情で
先生の説明に耳を傾けている。
……なんか、気まずい感じのまま
文化祭を迎えることになっちゃったな。
私はあなたの推しから視線を外して教室を出た。
いつもはあなたの推しと並んで歩く廊下を、一人で歩く。
……この廊下、こんなに長かったっけ。
廊下には至るところに
ポスターやチラシが掲示されていて、
いかにも「文化祭前日」という雰囲気を
醸し出している。
私はそれら一枚一枚に目を通しながら
ゆっくりと歩いた。
もしかしたら、作業が早く終わったあなたの推しと
一緒に帰れるんじゃないか──
なんて、甘い期待を抱きながら。
そんな期待は虚しくも砕かれて
靴に履き替えた私はひとりで学校を出た。
駅までの帰り道は、
隣にあなたの推しがいないだけなのに
どこか色褪せて見えた。
いつのまにか隣を歩くあなたの推しが
当たり前になってしまっていた。
……でも、これが元々の私の世界だったはず。
文化祭が終わったらあなたの推しと一緒に帰ることも、
なくなっちゃうのかもしれないな……。
そんなことを考えながら、ふと視線を上げると
水でぼかしたみたいな黄昏時の空に
うっすらと星が瞬いていた。
星が見えるくらい薄く広がる雲を見て、
心配していた明日の天気は晴れだと確信する。
これからは、帰り道も、空を見上げるときも、
隣にあなたの推しはいないんだろうね。
視界いっぱいに広がった
ひとりで見上げるには大きすぎる空の下を
そんなことを考えながら歩いた。
夜、明日に備えていつもより早い時間に
寝る準備をしていると、スマホが震えた。
確認すると、あなたの推しからのLINEだった。
私が撮ったネモフィラが視界に入った瞬間、
飽きもせずに心臓が早まる。
明日は実行委員は他の生徒より集合が早いため、
いつもよりかなり早い時間の電車に乗る。
思わず口から「えっ」と驚きの声が漏れた。
それと同時に体温がじわじわと上昇していく。
ドキドキしながら返信をすると、
すぐに既読がついた。
スマホを握りしめた手に、ぎゅっと力が入る。
ドクン、ドクン、と大きく跳ねる心臓の音に合わせて、
あなたの推しの文字が揺れる。
前と同じところって、
GWの最終日にはんぺんの写真を撮るために
公園まで来てくれたあの日に待ち合わせた
コンビニ前、ってこと……?
彼に「好きな人」がいることを
忘れてしまいそうなほど嬉しくて、
頬が熱くなる。
ぎゅうと心臓を掴まれたみたいに苦しい。
嬉しいことと悲しいことが同時に繰り返されて、
あなたの推しの言葉が嬉しくてドキドキしているのか、
あなたの推しには好きな人がいる、という絶望で
苦しいのか、わからない
私はふう、と息を吐く。
明日から始まる二日間の文化祭は
この2ヶ月間の集大成。
明日、あなたの推しの隣りにいるのは
「あなたの推しを好きな私」じゃなくて
「実行委員の私」じゃないといけない。
スマホを枕元に置いて、布団に入る。
スマホの背面に挟んだあなたの推しが描いた
はんぺんと目があった。
とぼけた顔のはんぺんに、ふ、と頬が緩む。
頑張るから見守っててね。
そう心の中で話しかけて
ケース越しにそっと触れた。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!