第87話

Golden Hour ◇ story 83.
4,433
2026/03/18 05:24 更新


朝、6時前。

あなた
いってきまーす


玄関のドアを開けると昨日の帰り道に確信したとおり
明るく澄み渡った空が広がっていた。


衣替えをしたばかりのブラウスに
朝のさっぱりとした風が心地よく通り抜ける。


教科書の入っていない、
いつもより軽いバッグを肩に掛け直して道に出た。




案の定、昨日はすぐには寝付けなかった。


真後ろにはっきり感じたあなたの推しの体温も、
あなたの推しに好きな人がいることも、
「一緒に行こう」とLINEで誘ってくれたことも、
ひとつひとつが新聞の一面レベルに大きな出来事で。


色々思い出しては顔を赤らめたり、
顔を青くしたりしながら布団の中で考え込んでいた。



準備室でのこと、あなたの推しはどう思ったかな、とか

好きな人がいるあなたの推しにとっては
不快な出来事だったのかな、とか

もしそうだったら悲しいな、とか

今日あなたの推しの顔を見たら思い出しちゃって、
挙動不審になったらどうしよう、とか

文化祭中は「実行委員のメンバー」として
ちゃんと振る舞えるかな、とか。


そんなことばかり考えていた。



だけど、駅舎のコンビニの前に立つ
あなたの推しの姿を見た瞬間にすべてが吹き飛んだ。

あなたの推し
……おはよ


半袖のシャツからスラリと伸びる長い腕を、
ズボンのポケットに突っ込んで気怠げに立っていた
あなたの推しの表情が柔らかくなる。



……あ、半袖だ。


でも昨日までは長袖のシャツを着ていたはず──



今は合服期間で長袖でも半袖でも
好きな方を着ていい。


だからあなたの推しが半袖のシャツを着ていても
おかしくないのに、昨日まで長袖で隠されていた
筋の浮いた健康的な腕があらわになっていて
目のやり場に困ってしまう。

あなた
お、はよ


今まで隠れていたぶん、なぜだか
見てはいけないものを見てしまったような
罪悪感が湧き上がってきて、
私は腕を見ないように意識しながら笑顔を作った。

あなた
一緒に行こうって誘ってくれて、ありがとう
あなたの推し
うん。途中から合流するし、丁度いいかなって


そう言ってあなたの推しは軽く微笑んだ。


そんな小さな笑顔にさえ、私の胸はどきんと跳ねる。


それと同時に、あなたの推しには好きな人がいるのに
私なんかと一緒に登校してもいいのかな、
と不安にもなった。


あの日みたいに駅の外で合流した私たちは
電車に乗るために並んで歩き始めた。



土曜日の早朝から制服で駅を歩く私たちを
スーツを着た大人がちらりと見て通り過ぎていく。


改札を抜けてホームへ上がると、
いつもより人がいなくてがらんとしていた。


こんな時間にホームにいるのは初めてで、
人がいない理由が土曜日だからなのか、
時間が早いからなのかはわからなかった。


隣に立つあなたの推しは、何を言うでもなく
ただホームの上から見える私の住む街を
静かに見下ろしていた。




電車が到着して乗り込むと、車内の乗客も少なくて
席もかなり空いていた。


私たちは並んで空いている席に腰を下ろした。


こうして並んで座ってみると、隣の人との距離が
思ったより近いことに改めて気づく。



公園で写真を撮ったあの日も
あなたの推しと同じベンチに並んで座ったけれど、
そのときとは比べ物にならないくらい
近い距離に緊張する。


気を抜くと肩や太ももが隣りに座るあなたの推しに
触れてしまいそうで落ち着かない。



普段は運良く座れたときに「隣の人と近いな」
なんて思ったりしないのに、
今は隣りにいるのがあなたの推しだからなのか、
その近さを意識してしまってドキドキが加速する。

あなた
昨日、何時まで残ってたの?


黙っていると頭の中があなたの推しでいっぱいになって
爆発してしまいそうだったから、
当たり障りのない話題を小声で振った。

あなたの推し
あのあと、30分くらいで終わった。
思ったより大したことなかったよ
あなた
そうだったんだ


だったら少し待ってたら一緒に帰れたのかな、
なんて考えが頭をよぎる自分に呆れた。

あなたの推し
あなたのあなたの名字さんは一人で帰れた?
……ってそれも変か


隣に座るあなたの推しがくく、と笑った。


あなたの推しの肩が小さく揺れて、
その振動が私の腕に伝わる。



その瞬間、私の頬がぽっと熱くなった。

あなた
そ、そりゃ一人で帰れるよ


熱を誤魔化すように言うと

あなたの推し
うん、わかってる。
でも最近一緒に帰ることが多かったから、なんか
ひとりで大丈夫かなって心配になった


そう言ったあなたの推しがまた、おかしそうに笑った。



ずるいなあ。

好きな人がいるくせに、そんなこと言うなんて。



今までだったらただ素直に、あなたの推しの中に
“私のことを考えてくれた時間”
が存在したことが知れただけで、嬉しく思えたのに。


あなたの推しに好きな人がいるという事実が、
彼のどんな言動にも

「でも、好きな人がいるんだよね?」

と、素直に喜びそうになる私の心に釘を指した。




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     •.\ Thank you for reading ! /.•


こんばんは!
いつも作品を読んでくださりありがとうございます!

たくさんのコメント、いいね、お気に入りとても嬉しいです!
ありがとうございます🥺💕

今回はアンケートを取らせてください…!

以前、チャプターの最後に





このような定型文を入れている時がありました!




最近は思うところがあって入れていません。

たとえば、読み終わった後のドキドキ感や
ハラハラ感を損なって欲しくないときは、
この定型文が雑音になってしまう気がして
入れていませんでした。

その延長で最近は入れていないことが多いです。


でも、あった方が、
「コメントしようかなー!」「いいねしようかなー!」
となりますか???

もし邪魔になってしまうなら入れたくないし、
あっても気にならないよー!
コメントやいいねにつながるよー!
と言う場合は入れるようにしようかなと思います!

アンケートは匿名なので、気軽にポチッと
教えていただけると嬉しいです🙇‍♀️

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