プールなんて行きたくないに決まっている。
でもまぁ、夏と言えばプールだろう。
報復となれば仕方ない、ということにしておきたい。
薊ヶ丘駅から電車に揺られて30分のレジャー施設。
そこに俺は睦希を向かわせた。
ここで一人くらい溺れ死にさせたらいいんじゃないかと思い、実行することにしたのだ。
前回と同じ水着じゃバレるだろうし、全身ラッシュガードも変に浮く気がする。
何だかんだで諦めた俺は痣だらけの腕を隠す為、ラッシュガードの上だけを着て下は生足。
髪は高めのポニーテール、綺麗な石の飾りがついたシュシュで結んでいる。
いつもなら黒いカラコンをつけるところを今日は青いカラコンを右目につけていた。
どういうキャラで行こうか…
取り敢えず…日本とどっかの国のハーフで海外に留学している、夏休みということで日本に遊びに来た…
暗いと柚ってなるか?テンションは…颯斗とか結依達に寄せた方が良いのか………嫌だけど。
そう笑顔で鏡に映るハーフの子を見ると、防水ケースに入れたスマホとお金を持って、更衣室を出た。
睦希の場所を知ろうと、メッセージを送ってみる。
【今何処?あと誰連れてる?】
【ウォータースライダーの近くのアイス屋】
【一緒は修哉、一輝、美彩、はな】
【想像以上に誘ったな】
【最初はAとSの修哉と一輝だけの予定だった】
【なのに、最後になって修哉が女子誘いたいとか言い出したせいで美彩とはなも来ることになった】
【はなって意外と鋭いからな…まぁ、何とかするよ】
【なんかごめん】
【全然】
【すぐに合流しに行く】
【了解】
男子組はAとS。女子は両方B。
Bは殺す気ないから標的はAの一輝かSの修哉に限る。
で、修哉にはもっと苦しんで死んでもらいたい。
…結果、今回の標的は一輝だ。
余裕がありそうなら美彩もやろう。
出席番号31、八野一輝。
体育祭実行委員会、帰宅部所属。
五教科の点数は毎回補習ギリギリ、副教科は何故か高いという不思議な頭脳。運動は普通。
幼馴染である修哉とよく一緒にいる。
で、修哉が俺にすることにノッていじめ。一人ですることはない。
修哉程ではないからランクはA。
頭の中で鶴のメモの内容を思い出しながら、何処にいても見える巨大なウォータースライダーに向かう。
ウォータースライダーに近付くと、睦希が言っていたアイス屋が見えてすぐ近くのテーブルでアイスを食べている男女の集団も見えた。
近くに行く為にアイスを買って、テーブルの方へ。
はなから逃げてきた睦希が前を見ず、俺は俺でアイスを見ていて後ろから来ていたことを気付けず、睦希が思いっきり俺の背中にぶつかる。
俺は何とかアイスを落とさず踏みとどまったものの、睦希はアイスは落とすしその場に尻もちもついた。
いつもより何トーンも高い声で言うと、俺は膝を軽く曲げて睦希に手を差し出した。
俺の手を掴んだ睦希を立たせると、そのまま睦希の背中を押してアイス屋に向かう。
睦希が食べていたアイスを選ばせ、俺がはなが食べたがっていたアイスを頼んでお金を支払い店員が作っている間、横に立つ睦希が俺に声をかけてくる。
俺の満面の笑顔に若干睦希が引いているのは気の所為だとしておく。
アイスを持って戻ると、はなが申し訳なさそうに両手を合わせてくる。
はなはいつも適当、ゆるゆるで掴めない。
でも、頭も運動能力もクラス…いや、学年の中でも上位で毎回当たり前のように10位以内にいる。
柔らかな微笑みを浮かべながら話す英語もネイティブと全く同じで間違いがない。
ヤバい、名前考えてなかった…名前、名前……
修哉にちゃん付けで呼ばれたことに嗚咽を漏らしたい気分になるが、笑顔を崩さず俺は笑う。
溶けかけたアイスを食べながら明るい笑顔を見せ、俺は睦希に視線をやった。
睦希は俺がグループに自然な形で馴染めたことに驚いたのか、苦笑に近い笑みを浮かべる。
あと何時間後に一輝は死ぬか…楽しみなところだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。