「それはそうとあなたどうすんの?」
「なにがです」
「いやいや、ずっとそのままって分けにもいかないだろ」
「ま、まぁそうなんですけど…」
部屋入れなかったら流石にやばいだろ。
なんて滅多に見せない真面目な顔でそう言ってくるもんだから反応に困る。
へえ。お隣さんってこんな顔も出来るんだな、なんて思ってみたり。
「それにずっと食べ物外置いとくのもなー」
んー、どうすっか。
そう言ってあたしの前にかがみこんでいたお隣さんはよいしょと立ち上がり、
アパートの廊下全体を見渡してからぐるりと向き直ってあたしに一言。
「よし。俺も一緒に探すよ」
「えっ、い、いいですよそんな」
いくらなんでも流石にそれは申し訳ない。
あたしの不注意でお隣さんに時間を割いてまで
一緒に探してもらうワケにもいかないでしょう。
あたしの良心が許さないって話です。
「あのなあなた。好きな子が困っててそれを助けない男がいると思うか?」
それに男ってのはな、好きな子の前では格好よくいたい生き物なんだよ。
なんて得意げに言われてしまうとなにも言い返せないワケで。
男の人からこんなストレートに小恥ずかしいセリフを言われた事なんて
ある筈もないあたしはみるみる顔に熱が集まっていくのを感じた。
あああ、駄目だ。普通に照れてしまった。
「あ、あなた照れてる」
「なっ、照れてませんよ!」
「嘘はよくないなー、顔真っ赤だぞ」
あたしの頬をつんつんつつきながら実に楽しそうにそう言ってくるお隣さん。
この時のお隣さんのだらしのない表情と言ったらもうほんと凄いものでした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!