第20話

episode15 #紅茶の味
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2026/02/25 06:00 更新
紅茶を口に含んだ。
いつも通りの温かい味が身に沁みる。
女は、目の前にいる男の顔を見て、少しだけ気持ちが昂ったように見えた。
この男が人の誘いに乗ることはよくあることだ。
しかし、女と一対一で出かけることは少なかった。

女は男に向き直った。
月東蘭
こうやって一対一で話すのは、久々ですね!
松山昂輝
おう、最後に喋ったのいつだったっけな。
月東蘭
えっとぉ...、学年末テストの範囲確認が最後だと思います...!
にこにことした朗らかな笑顔で女は男に言葉をかけた。
男も優しい口調で、誰がどこから見ても「お似合いのカップル」だっただろう。
松山昂輝
確かに話すときは大体、桜とか玲央がいたな。
月東蘭
はい!…ごめんね、忙しいだろうに誘ってしまって...
松山昂輝
いや、誘ってもらってうれしかったよ。
月東蘭
…松山くんは口上手ですね?
松山昂輝
...?
松山昂輝
「何かを意識して話してる」なんてことはないぞ、蘭と話してたら自然に言葉が出てくる。
月東蘭
...へぇ。
高度な恋愛心理戦に見える。
だが、松山昂輝は頭のねじが2本くらい抜けているので恐らく素で喋っている。
月東蘭も天然なのか計算なのかは不明だが雰囲気がふわふわとしている。
つまり、計算されつくした会話ではないのだろう。
松山昂輝
蘭が誘ってくれたこのカフェ、すごくお洒落だな。
月東蘭
はい!雰囲気もいいですし、なにより甘味がおいしいんですよ~!
松山昂輝
甘味...蘭のおすすめはどれだ?
月東蘭
ん-...やっぱりイチゴのパンケーキかな!すんごい美味しいんだよ~
月東蘭
あ、でも松山くんって和菓子好きでしたよね...?
丁寧に会話を重ね、彼の好みを紐解いていく姿は素敵だった。
彼は感謝を伝えた。
女は男の好みをふまえ、おすすめ料理を探していた。その姿に嘘偽りはないように思えた。
最終的に彼女はあんバターのパンケーキをお勧めしていた。
彼は笑顔で感謝を伝えたのち、そのメニューを頼んでいた。
パンケーキを待っている間、2人は会話に花を咲かせていた。
「夏芽」「涼」「矢切先生」
会話に出てくる名前はさまざまであった。
パンケーキを口にしながら、談笑を交わす姿は「級友」という言葉がぴったりで、裏切り者のことなど頭にもよぎっていないようだった。
松山昂輝
ごちそうさま。
松山昂輝
ありがとな、おいしかったよ。
月東蘭
えへへ、本当ですか?
月東蘭
でも、私はおすすめしただけなので感謝されるようなことは...!
松山昂輝
俺が感謝したいからするだけだよ、俺にとっては感謝するべきことだったし。
松山昂輝
蘭が食べてたチョコバナナのパンケーキも美味しそうだったな、次来るときはそれ食べてみるよ。
月東蘭
うんっ、おいしかったですよ!
松山昂輝
また、誘ってね。
月東蘭
はいっ!
松山昂輝が月東蘭に送る視線には、松山昂輝の感情のすべてが埋まっていたように感じた。

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