世界に、戦慄した空気が走った
遠くから鴉の鳴き声がする
それはどんどんと、こちらに近づいてくる様だ
リスタの出現にそれぞれは息を呑む
勿論、夜蘭もその例外ではなく、
体をぶるりと震わせた
夜蘭が気迫迫る表情で訴えかけるも、
リスタはまだ状況を掴めない
ヒースクリフの目線がじっとりと、
ドーパミンを抱える夜蘭に注がれた
夜蘭の顔が歪む
口をはくはくと動かすが、言葉は出てこない
その全ての空を暗く覆い尽くしてしまいそうな瞳を、
夜蘭は苦しげに見つめ返す
「ヒースクリフ、なにか誤解がある」
そう言おうとして、脳裏に火花が散った
「真実なんてどうでもいい、
俺はただお前が恨めしくて仕方がないんだからな」
言葉は喉に突っかかり、
ただひたすら胸に澱みが溜まっていった
夜蘭の心を、罅が貫く
笑い声がした、
それは夜蘭の笑い声だった
杏里はその場から目を逸らす
こうするしか無かったのだと、
よく理解していたから
夜蘭はドーパミンの首に、
手を掛けた
しかし、ヒースクリフ以外の者は誰一人
目を丸くして心拍数を上げて、
固まったように動かない
杏里は夜蘭の動向に気を配る
まるで何が起こっているか、全て理解しているように
長い時間が経つ
それは真実か、或いは精神世界か
夜蘭は雨音の様に静かに、
ぽつりと呟いた
ヒースクリフは、必死に歯軋りをさせる
どうしたらドーパミンを奪還できるのか、
知略を巡らせているようだ
頭が割れそうになる
ストレスが体を蝕んで仕方ない
本当にこれが正しいのか
取り返しがつかないんじゃないか
もっと別の道があるんじゃないか
しかし、壁は目の前だ
もう逃げることは出来ない
選ばなければいけなかった
夜蘭は善悪をかなぐり捨て、ぶん殴り決断する
大きく、
息を吸った
すると、その言葉は風に乗り、
空気に染み込むように、溶けていく
夜蘭は肩で息をした
安堵と恐怖が体を襲う、涙が溢れそうになった
しかしそんな夜蘭の体を、
それぞれが寄り添って抱きしめる
「 化 雪 」
それはイノベアの魔術師に許された
最後の催眠魔法
そんな音色を確かに覚えながら、
ヒースクリフは意識を失った
それから先はもう、
何も見えない、思い出せない
約束だ
俺は必ず、またお前に
_____それはこの王国の帝都イノベアに、
革命を齎す切なき日
桜が舞った
それは、名前も知らぬある春の日
帝都の教会では、戴冠式が行われている
その外では、たくさんの人が何かを待ち構え、
賑わっていた
その場にいる報道者は、
まだ少し肌寒い空気を感じ、鼻を赤らめている
大きな教会の下には、
赤いカーペットが引かれていた
協会の大きなステンドガラスの囲む開放的な入口から
数人が姿を現し、大勢は歓声を上げる
和やかな春の雰囲気
人々は笑顔に満ち溢れ、
些細な悪は見逃されそうな気がした
そんな最中
杏里に目の前に、
純白の剣が突き刺さる
どこからが聞こえるのは、低い声
その声とともに、
杏里ただひとりが悠々と歩むホワイトカーペットに、
男が舞い降りる
周りからは、不安の声が上がった
通信魔法の中継最中にも、
男、オーキッド・K・ナイトレードは語り始めた
そういい、夜蘭は杏里の羽管を切りつけ、
羽を露出させる
その姿に、国民は悲鳴をあげた
混乱、悲鳴、中継、何かが引きづられる音
世界は混乱に満ちた
_______そんな最中
ガラン・ヒースクリフは目を覚ます
目に映るのは、欅色の天井と、大きな本棚
そして、騒がしさと春の香りを運ぶ、
白い窓だ
しかし、それはすぐに塞がれた
そうしてヒースクリフはやっと、
自分が大きく白い、
ベットに寝かされていたことにきづく
眉をひそめ体を動かそうとすると、
すぐに桃色の花弁は離れていった
花弁を目線で追いかける
そして
目の前には椅子に座り、
眠りこけたサザン・ドーパミンがいた
男の目尻は赤く腫れ、濡れている
微かにかかった毛布は今、
彼の肩を滑り落ちようとしていた
そう呟いて、ヒースクリフは薄い毛布を掛け直す
まだ早い、麗らかな春の訪れを感じながら






















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。