文化祭準備期間。
教室はずっと騒がしい。
ペンキの匂い。
笑い声。
机を運ぶ音。
みんな浮かれてる。
——
その中で、
私はずっと落ち着かなかった。
理由なんてわかってる。
——
湊。
白石さん。
その二人が、
どうしても目に入るから。
——
「朝倉くんこれ持って〜!」
「……重。」
「え、筋トレじゃん。」
「なんで文化祭で鍛えなきゃいけねぇの。」
周りが笑う。
白石さんも笑う。
湊も少しだけ笑う。
——
胸、
また痛くなる。
——
「葵ちゃん。」
急に名前呼ばれる。
振り向く。
白石さん。
「ちょっと来て。」
——
嫌な予感。
——
人気のない準備室。
段ボールと備品が置かれてる狭い部屋。
ドアが閉まる音、
やけに響いた。
「……なに?」
できるだけ普通に聞く。
でも、
白石さんは笑わなかった。
——
「葵ちゃんさ。」
静かな声。
「なんで朝倉くんと両想いみたいな空気出してんの?」
——
息、
止まった。
「……え。」
「だって付き合ってないよね?」
——
言葉が刺さる。
——
「なのに周りも“お似合い”みたいな感じで。」
「正直ちょっと無理。」
「……」
「朝倉くん優しいからさ。」
白石さんは淡々と言う。
「葵ちゃんにも優しくするじゃん。」
「でも、それって特別なの?」
——
やめて。
——
「勘違いしてるだけじゃない?」
——
その瞬間。
胸の奥、
ぐちゃってなった。
——
「……っ」
何か言い返したいのに、
言葉出ない。
すると白石さんが、
少しだけ目を細めた。
「ていうか。」
「朝倉くん、葵ちゃんといる時だけ変わるよね。」
「……」
「だから余計むかつく。」
——
怖い。
——
「私、本気で好きなの。」
白石さんの声が震えてる。
「なのに葵ちゃんいると、全然こっち見てくれない。」
「……」
「だからさ。」
白石さんは真っ直ぐこっちを見た。
「中途半端なら離れて。」
——
限界だった。
——
「……っ」
視界、
ぼやける。
やばい。
泣く。
こんなとこで。
——
「……ごめ、」
声、
震える。
白石さんが少し目を見開いた。
たぶん、
泣くと思ってなかった。
——
もう無理。
私はそのまま、
逃げるみたいに部屋を出た。
——
廊下。
人の声。
笑い声。
全部遠い。
——
泣きたくない。
でも止まんない。
トイレ行かなきゃ。
そう思って曲がり角を曲がった瞬間。
「……葵?」
——
声。
湊。
——
終わった。
——
顔上げられない。
「どうした。」
近づいてくる足音。
「……なんでもない。」
またそれ。
でも、
今の声、
完全に泣いてる。
——
湊が黙る。
それから。
「……は?」
小さく、
信じられないみたいな声。
「え、」
少し屈んで、
顔覗き込まれる。
「……葵?どうした?」
——
見ないで。
——
顔逸らす。
でも、
湊はさらに眉寄せた。
「……何。」
その声、
さっきまでと全然違う。
焦ってる。
「誰かなんか言った?」
「……」
「白石?」
——
図星。
——
何も言わない私を見て、
湊の顔が変わる。
静かなのに、
空気だけ冷える。
——
でも。
湊は追及しなかった。
「……。」
ただ、
泣いてる私を見てる。
その視線が苦しい。
——
「……帰る。」
無理やりそう言って、
通り過ぎようとした瞬間。
ぐい。
制服の袖、
軽く掴まれる。
「待って。」
低い声。
——
「……そんな顔すんな。」
——
え。
——
「何溜め込んでんの。」
——
優しい声だった。
怒ってない。
責めてもない。
ただ、
本気で心配してる声。
——
それ聞いた瞬間、
余計涙止まんなくなった。
——
湊、
少し困った顔する。
「……だから泣くなって。」
そう言うくせに、
離してくれない。
——
その手が、
あったかすぎて。
——
余計苦しかった。
——












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。