第11話

#11 初めて見た顔
11
2026/08/06 05:07 更新
文化祭準備期間。

教室はずっと騒がしい。

ペンキの匂い。

笑い声。

机を運ぶ音。

みんな浮かれてる。

——

その中で、

私はずっと落ち着かなかった。

理由なんてわかってる。

——

湊。

白石さん。

その二人が、

どうしても目に入るから。

——

「朝倉くんこれ持って〜!」

「……重。」

「え、筋トレじゃん。」

「なんで文化祭で鍛えなきゃいけねぇの。」

周りが笑う。

白石さんも笑う。

湊も少しだけ笑う。

——

胸、

また痛くなる。

——

「葵ちゃん。」

急に名前呼ばれる。

振り向く。

白石さん。

「ちょっと来て。」

——

嫌な予感。

——

人気のない準備室。

段ボールと備品が置かれてる狭い部屋。

ドアが閉まる音、

やけに響いた。

「……なに?」

できるだけ普通に聞く。

でも、

白石さんは笑わなかった。

——

「葵ちゃんさ。」

静かな声。

「なんで朝倉くんと両想いみたいな空気出してんの?」

——

息、

止まった。

「……え。」

「だって付き合ってないよね?」

——

言葉が刺さる。

——

「なのに周りも“お似合い”みたいな感じで。」

「正直ちょっと無理。」

「……」

「朝倉くん優しいからさ。」

白石さんは淡々と言う。

「葵ちゃんにも優しくするじゃん。」

「でも、それって特別なの?」

——

やめて。

——

「勘違いしてるだけじゃない?」

——

その瞬間。

胸の奥、

ぐちゃってなった。

——

「……っ」

何か言い返したいのに、

言葉出ない。

すると白石さんが、

少しだけ目を細めた。

「ていうか。」

「朝倉くん、葵ちゃんといる時だけ変わるよね。」

「……」

「だから余計むかつく。」

——

怖い。

——

「私、本気で好きなの。」

白石さんの声が震えてる。

「なのに葵ちゃんいると、全然こっち見てくれない。」

「……」

「だからさ。」

白石さんは真っ直ぐこっちを見た。

「中途半端なら離れて。」

——

限界だった。

——

「……っ」

視界、

ぼやける。

やばい。

泣く。

こんなとこで。

——

「……ごめ、」

声、

震える。

白石さんが少し目を見開いた。

たぶん、

泣くと思ってなかった。

——

もう無理。

私はそのまま、

逃げるみたいに部屋を出た。

——

廊下。

人の声。

笑い声。

全部遠い。

——

泣きたくない。

でも止まんない。

トイレ行かなきゃ。

そう思って曲がり角を曲がった瞬間。

「……葵?」

——

声。

湊。

——

終わった。

——

顔上げられない。

「どうした。」

近づいてくる足音。

「……なんでもない。」

またそれ。

でも、

今の声、

完全に泣いてる。

——

湊が黙る。

それから。

「……は?」

小さく、

信じられないみたいな声。

「え、」

少し屈んで、

顔覗き込まれる。

「……葵?どうした?」

——

見ないで。

——

顔逸らす。

でも、

湊はさらに眉寄せた。

「……何。」

その声、

さっきまでと全然違う。

焦ってる。

「誰かなんか言った?」

「……」

「白石?」

——

図星。

——

何も言わない私を見て、

湊の顔が変わる。

静かなのに、

空気だけ冷える。

——

でも。

湊は追及しなかった。

「……。」

ただ、

泣いてる私を見てる。

その視線が苦しい。

——

「……帰る。」

無理やりそう言って、

通り過ぎようとした瞬間。

ぐい。

制服の袖、

軽く掴まれる。

「待って。」

低い声。

——

「……そんな顔すんな。」

——

え。

——

「何溜め込んでんの。」

——

優しい声だった。

怒ってない。

責めてもない。

ただ、

本気で心配してる声。

——

それ聞いた瞬間、

余計涙止まんなくなった。

——

湊、

少し困った顔する。

「……だから泣くなって。」

そう言うくせに、

離してくれない。

——

その手が、

あったかすぎて。

——

余計苦しかった。

——

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