泣いてるところを見られた。
しかも、
湊に。
——
人生で一番最悪かもしれない。
——
「……帰る。」
私はもう一度そう言った。
今度こそ。
この場から逃げたかった。
でも。
「送る。」
湊が即答した。
「いらない。」
「送る。」
「大丈夫だから。」
「大丈夫じゃないだろ。」
——
返す言葉がない。
——
結局、
半ば強引に一緒に帰ることになった。
帰り道。
会話はほとんどない。
ただ、
湊がいつもより歩幅を合わせてくれているのだけはわかった。
——
家の近く。
「じゃあ。」
そう言って離れようとした時。
「明日。」
湊が呼び止める。
「……なに。」
「無理すんな。」
——
それだけ。
——
でも。
それだけで、
また泣きそうになった。
——
翌日。
教室に入る。
みんな普通。
昨日のことなんて誰も知らない。
……はず。
——
でも。
湊だけは違った。
——
「おはよ。」
「……おはよ。」
「ちゃんと寝た?」
「寝た。」
「嘘。」
「なんで。」
「目。」
——
見んな。
——
休み時間。
「それ提出。」
昼休み。
「ちゃんと食えよ。」
放課後。
「一人で運ぶな。」
——
過保護。
ほんとに。
——
たぶん、
昨日のせい。
——
でも。
その全部が、
嬉しいのも事実だった。
——
そんな中。
白石さんは変わらなかった。
——
いや。
むしろ、
焦っていた。
——
文化祭まであと一週間。
教室で準備していると、
白石さんが湊の隣に座る。
「朝倉くん。」
「ん。」
「文化祭終わったらさ。」
「ん?」
「話したいことある。」
——
聞こえてしまった。
——
湊は少しだけ考えて、
「……別にいいけど。」
と答える。
——
胸が痛い。
——
その日の放課後。
備品を取りに倉庫へ向かっていた時だった。
「葵ちゃん。」
また。
——
白石さん。
——
今度は誰もいない階段。
前みたい。
——
「……なに。」
「昨日ごめん。」
——
え。
——
予想外だった。
白石さんは少しだけ目を伏せる。
「言いすぎた。」
「……」
「泣かせるつもりはなかった。」
——
本心っぽかった。
でも。
次の言葉で、
全部吹き飛んだ。
——
「でも諦める気はない。」
——
白石さんは真っ直ぐ言う。
「私、本気だから。」
「……」
「文化祭終わったら、ちゃんと告白する。」
——
心臓、
嫌な音立てる。
——
「だから。」
白石さんは小さく笑った。
「負けないよ。」
——
勝負なんかしたくない。
——
そう思った。
でも、
声にならなかった。
——
その頃。
教室。
——
「朝倉ー、それどこ置く?」
「適当に。」
「適当すぎ。」
男子たちが笑う。
でも。
湊はどこか落ち着かなかった。
——
最近ずっと。
——
昨日の顔が、
頭から離れない。
——
泣いてた顔。
無理して笑おうとしてた顔。
——
あんな顔、
初めて見た。
——
「……。」
自然と視線が教室を探す。
いない。
——
また白石か。
——
なんとなく、
そう思った。
確証はない。
でも。
——
勘。
——
そしてその勘は、
たぶん当たってる。
——
湊は小さくため息をついた。
「……めんどくせぇ。」
——
でも。
その顔は少しだけ険しかった。
——
もし本当に白石が原因なら。
——
もう、
見てられない。
——












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。