第12話

#12 もう見てられない
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2026/08/06 05:09 更新
泣いてるところを見られた。

しかも、

湊に。

——

人生で一番最悪かもしれない。

——

「……帰る。」

私はもう一度そう言った。

今度こそ。

この場から逃げたかった。

でも。

「送る。」

湊が即答した。

「いらない。」

「送る。」

「大丈夫だから。」

「大丈夫じゃないだろ。」

——

返す言葉がない。

——

結局、

半ば強引に一緒に帰ることになった。

帰り道。

会話はほとんどない。

ただ、

湊がいつもより歩幅を合わせてくれているのだけはわかった。

——

家の近く。

「じゃあ。」

そう言って離れようとした時。

「明日。」

湊が呼び止める。

「……なに。」

「無理すんな。」

——

それだけ。

——

でも。

それだけで、

また泣きそうになった。

——

翌日。

教室に入る。

みんな普通。

昨日のことなんて誰も知らない。

……はず。

——

でも。

湊だけは違った。

——

「おはよ。」

「……おはよ。」

「ちゃんと寝た?」

「寝た。」

「嘘。」

「なんで。」

「目。」

——

見んな。

——

休み時間。

「それ提出。」

昼休み。

「ちゃんと食えよ。」

放課後。

「一人で運ぶな。」

——

過保護。

ほんとに。

——

たぶん、

昨日のせい。

——

でも。

その全部が、

嬉しいのも事実だった。

——

そんな中。

白石さんは変わらなかった。

——

いや。

むしろ、

焦っていた。

——

文化祭まであと一週間。

教室で準備していると、

白石さんが湊の隣に座る。

「朝倉くん。」

「ん。」

「文化祭終わったらさ。」

「ん?」

「話したいことある。」

——

聞こえてしまった。

——

湊は少しだけ考えて、

「……別にいいけど。」

と答える。

——

胸が痛い。

——

その日の放課後。

備品を取りに倉庫へ向かっていた時だった。

「葵ちゃん。」

また。

——

白石さん。

——

今度は誰もいない階段。

前みたい。

——

「……なに。」

「昨日ごめん。」

——

え。

——

予想外だった。

白石さんは少しだけ目を伏せる。

「言いすぎた。」

「……」

「泣かせるつもりはなかった。」

——

本心っぽかった。

でも。

次の言葉で、

全部吹き飛んだ。

——

「でも諦める気はない。」

——

白石さんは真っ直ぐ言う。

「私、本気だから。」

「……」

「文化祭終わったら、ちゃんと告白する。」

——

心臓、

嫌な音立てる。

——

「だから。」

白石さんは小さく笑った。

「負けないよ。」

——

勝負なんかしたくない。

——

そう思った。

でも、

声にならなかった。

——

その頃。

教室。

——

「朝倉ー、それどこ置く?」

「適当に。」

「適当すぎ。」

男子たちが笑う。

でも。

湊はどこか落ち着かなかった。

——

最近ずっと。

——

昨日の顔が、

頭から離れない。

——

泣いてた顔。

無理して笑おうとしてた顔。

——

あんな顔、

初めて見た。

——

「……。」

自然と視線が教室を探す。

いない。

——

また白石か。

——

なんとなく、

そう思った。

確証はない。

でも。

——

勘。

——

そしてその勘は、

たぶん当たってる。

——

湊は小さくため息をついた。

「……めんどくせぇ。」

——

でも。

その顔は少しだけ険しかった。

——

もし本当に白石が原因なら。

——

もう、

見てられない。

——

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