泥だらけの長靴を鳴らして走ってくるのは 、 まだ幼い神楽だ 。
神楽は私の姿を見つけるなり 、 大きな瞳を輝かせて抱きついてくる 。
私と神威が同い年だからか 、 彼女は私のことを本当の姉のように慕ってくれていた
後ろから傘を差し 、 けだるそうに歩いてくる神威 。
私と同じ年のはずなのに 、 その瞳には時折 、 この星の雨よりも冷たい色が宿る 。
けど 、 私と目が合うと 、 神威はふいっと視線を逸らして口角を上げた 。
私が言い返すと 、 神威はクスクスと笑う 。
それは戦場を知る前の 、 ただの少年の笑い声だった 。
私たちは 、 この薄暗い路地裏で 、 壊れかけの屋根の下で肩を寄せ合って笑っていた 。
江華さんの優しい微笑み 、
海坊主さんの怒鳴り声 、
そして神威の隣で感じる 、 わずかな体温 。
それが永遠に続くなんて 、 思っていたわけじゃない 。
けれど 、 この雨が止む日が来ればもっと遠くの陽の光が届く場所へ三人で行けるのだと ___
幼い私は 、 その琥珀色の時間を疑うことさえ知らなかったのだ 。
数年後 ____
神威が烙陽から出て行った 。
駆け寄ろうとした私の足を止めたのは 、 神威が放った凄まじい殺気だった 。
神威はゆっくりと首だけを動かし 、 冷徹な微笑を浮かべる 。
以前 、 二人の間で交わした約束があった ____
『 いつかこの星を出る時は 、 必ず二人で .お前を広い世界に連れてってやる 』
指切りまでして笑い合ったあの日の記憶が 、 泥水に溶けていく 。
叫ぶ私の言葉を 、 激しい雨音が掻き消す 。
神威は一瞬だけ 、 本当に一瞬だけ足を止めた
けれど 、 神威が語ったのは希望ではなく 、 決別の言葉だった 。
傘も差さず 、 神威は暗闇の向こうへと消えていった 。
残されたのは泥だらけの地面と 、 冷え切った私の手 。
そして翌朝 、 何も知らずに私の服の裾を掴み 、
「 兄ちゃんは ? どこアルか ? 」
と泣きじゃくる神楽の温もりだけが 、 私をこの残酷な現実へと繋ぎ止めていた 。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。