『人狼』
人狼..か...
初っぱなから人殺しになれっていうのかよ...
どうすれば...
びっくりした...
先輩はそう言って、頬を膨らませる。
いや、聞くのアリなんですか?
俺は勿論嘘をついた。
『人狼だよ。』
...え?
いや、言ったら駄目でしょ。
あ、もしかして...
先輩は俺を馬鹿にしているのだろうか...
俺はそう言って、「にやり」と笑う。
先輩もそう言って、「にやり」と笑う。
それから、お互いに背を向けてその場を去った。
人を殺す、か...
ははっ。
人殺しになる時間も近いな。
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放送が鳴り終わった。
えっ⁉
どうしよう。ここで先輩が俺が人狼だと言えば
死...
『人狼はいないと思う。』
え...?
確かに...
先輩はそう言って笑った。
ははっ。
先輩には参ったな。
本当、凄いや。
『うわぁぁぁぁぁぁぁ!』
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!』
町の人の叫び声が一斉に響いた。
けど、俺らのグループだけ聞こえない。
先輩の思惑が通じたわけだ。
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先輩はそう言って、いたずらっぽく笑う。
俺は笑ってそう言った。
先輩はそう言って笑う。
仕事放棄って...
俺はそう言って、「にやり」と笑う。
先輩はそう言って笑った。
後で思ってみれば、この時が一番平和だったの
かもしれない。
この後、絶望を味わうなんて
知らなかったのだから。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。