どれくらい経ったのかもう分からない。
朝も夜も曖昧な部屋で、私は息をしている。
レオナ先輩は時々、無言で髪を撫でてくる。
ラギー先輩は笑いながら食事を運び、
ジャックは隣に座って、ただじっと私の手を握っている。
レオナの低い声が、耳元に落ちた。
思い出そうとしても、記憶が霞んでいく。
誰かの笑顔、赤いカーテン、誰かの、温かい手……。
全部がぼやけて、遠くなる。
レオナ先輩が優しく笑う。
その笑顔が、怖いほど優しい。
彼の指先が私の額に触れた瞬間、
熱い砂の中に沈むような感覚が走る。
意識がゆらぎ、心が砂に混ざっていく。
レオナ先輩がその名前を口にした瞬間、
ほんのわずかに、空気が揺れた。
叫ぶ声を、後ろからラギー先輩の腕が包み込む。
その抱擁は優しくて、息ができないほど甘い。
ジャックが低く言い、そっと髪を撫でた。
その手が、優しいのに冷たい。
――幸せ。
その言葉が、遠くで何度も響いた。
レオナ先輩の指が顎を持ち上げる。
唇が勝手に動いて、微笑みの形をつくった。
……違う。
これは私の笑顔じゃない。
でも、彼らは満足そうに笑っていた。
レオナ先輩は穏やかに、ラギー先輩は嬉しそうに、ジャックは安堵して。
そして私は、気づく。
“外”を思い出そうとするたびに、
視界が砂に覆われることに。
砂の粒が記憶を削り取っていく。
私の心はもう、書き換えられてしまったのだ。
3人ががそっと呼ぶ。
その声に、反射的に微笑んでしまう。
レオナ先輩の手が頬を撫でた。
心が、砂の底に沈んでいく。
??
薄暗い廊下の奥で、3つの影が静かに立っていた。
”フロイド”が壁にもたれながら、にやりと笑う。
”ジェイド”が静かに言葉を継ぐ。
その瞳の奥には、計算と好奇心が光る。
”アズール”の声が響いた。
彼の手元には、あなたのリアル本名 下の名前の古い写真。
まだ“笑っていた頃”のあなたのリアル本名 下の名前が写っていた。
暗闇の中、アズールの眼鏡が光を反射する。
そして、新たな波が忍び寄っていた――。
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『 ”貴方の新しい家です” 』



















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。