第6話

 あめだま / 제노 
1,460
2023/05/27 16:06 更新



   ふわり .


   僕の鼻を掠める穏やかな香りが
   目の前を通り過ぎていく .



   思わず振り返ってしまうような ,
   思わず誰かが見とれてしまうような ,

   思わず誰かが , 捕まえてしまいそうな .




   そんな , 立てば芍薬座れば牡丹 ,
   なんて絶世の美女でもないのに

   人目見た時から , 僕は

   彼女に毒されたような気がしてる .



 제 노 
 제 노 
 いらっしゃいませ 




   静かに店内に入ってきた彼女に
   即座に目を奪われる .



   まただ .


   ぎゅっと締め付けられたような心臓が
   もう持たない , と
   泣き叫ぶように悲鳴をあげる .


   
 제 노 
 제 노 
 お好きな席にどうぞ 



   普通なら案内しなきゃ行けないのに ,
   いっぱい空いてるからなんて理由で

   贔屓じみた対応 .


   良くないね , 僕ってば思っているよりも
   態度に出ちゃうみたいで .



 너 
 ありがとうございます 



   また , ふわり .

    僕に向かって向けた笑顔に
   なんとも言えない感情がとめどなく溢れ出す .



   臆病なくせに , 奥手なくせに ,

   僕はどうしてこんな , 高嶺の花のような方に
   無謀な恋をしてしまったのだろうか .




 제 노 
 제 노 
 ご注文がお決まりになりましたら 
 お声がけ下さい .



   なるべく彼女には分からないように , って
   必死になって隠して , 営業スマイルを振りまく .


   彼女が座った席は僕がお気に入りの席で ,
   たった偶然がひきおこしたことでさえ
   僕は単純なもので嬉しくなってしまう .



 제 노 
 제 노 
 どうしよう .. 



   彼女が視界から外れれば
   僕の頬は緩み放題だ .


   いつも来てくれる訳ではなく ,
   たまに会えるからこそドキドキする彼女に

   今日はどうアピールしようかなんて


   奥手なくせに一丁前に考えちゃって
   僕ってばバカみたいだ .



 너 
 すみません 



   鈴を転がしたように愛らしい声が
   僕の鼓膜を揺らす .


   誰かが行く前に行かなきゃ , って
   急いで振り返れば違う人が既に対応していて.


   あぁ , やばい . 出遅れた .


   なんて ,
   彼女のことを考えてしまった
   僕自身のせいだけれど .




 재 민 
 재 민 
 あれ?あの子来てるじゃん 
 제 노 
 제 노 
 う , うん .. 



   心臓跳ねた ...

   同じバイトのジェミナが
   僕にそう話しかけてくる .


   彼は顔がいい割に恋愛をしようとしない
   僕からしたらずるい存在の人だ .


   良い奴なんだけどね .



 재 민 
 재 민 
 今日は何もしてないんだ? 
 제 노 
 제 노 
 僕にそんな勇気あると思ってるの .. ? 
 재 민 
 재 민 
 あるある ~ !! 思ってるより大胆だよ !! 
 제 노 
 제 노 
 … なんか別に言われても嬉しくない .. 



   大胆だって言われたって
   行ける!って気になる訳でもないし .



 재 민 
 재 민 
 でもうだうだしてるとさ ~ ..
  あ , 帰っちゃうんじゃない ?? 



   そう言われて弾かれたようにそちらを向く .

   彼女はそこまでこのお店に長居をしない .
   思っているよりも早く帰ってしまうのだ .



 재 민 
 재 민 
 レジだけでもやってきたら? 
 今ほら , 誰もいないし !!
 제 노 
 제 노 
 … わかった . 




   彼女は僕のことなんて覚えていないだろう .

   ここのお店の一店員 .
   きっとそうとしか思っていなくて ,
   それ以上でもそれ以下でもないのだろう .


   僕は別にそれでもいいんだ .



   自分が望んでした恋だから .




   プルプルと震える手が
   僕の瞳にとても情けなく映る .


   もっと堂々と出来たら ,
   自信満々にここに立てたら ,


   君の気を少しは惹けただろうか



 너 
 美味しかったです , 
 いつもありがとうございます 



   きっと僕よりも大人で ,
   彼氏だって居そうで .


   叶いもしない人なのに
   声を聞く度に , 姿を映す度に ,

   好きだなんて思ってしまう .



 제 노 
 제 노 
 あ , あのっ .. 



   その " いつもありがとうございます " が

   僕自身に向けられているわけじゃないことも
   全部 , 分かっているけれど .



 너 
 ? はい .. 
 제 노 
 제 노 
 これ , 良かったら .. 



   連絡先なんて渡せない .

   僕は貰っても困るような
   飴玉を2つ彼女に差し出した .


   見ず知らずのやつから貰った飴なんて
   少し怖いかもしれないのに .



 너 
 わ , 飴ですか ?? 
 제 노 
 제 노 
 はい , .. 今日から配ることになりました 



   なんて , バカみたいな見え見えの嘘をついて
   僕はその場を押し切ろうとした .


 너 
 ふふっ , そうですか 
 너 
 じゃあ , はい 
 제 노 
 제 노 
 え .. ?? 
 너 
 上げます .  ひとつ . 




   気持ちがもっと伝わるようにって ,
   強化されないかなって ,

   ふたつにしたのに ,
   ひとつの飴玉が僕の手元に帰ってきた .



 너 
 じゃあ , また来ますね 
 제 노 
 제 노 
 は , はい .. お待ちしております ,  !! 



   いい香りを漂わせて
   僕の目の前からいなくなった彼女は

   お店の扉を開けて外に出ていった .



   僕の気持ちを , きっと彼女は知らない .




   でも , いつか分かってくれないだろうか .
   この飴の意味も , 僕の気持ちも





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