ふわり .
僕の鼻を掠める穏やかな香りが
目の前を通り過ぎていく .
思わず振り返ってしまうような ,
思わず誰かが見とれてしまうような ,
思わず誰かが , 捕まえてしまいそうな .
そんな , 立てば芍薬座れば牡丹 ,
なんて絶世の美女でもないのに
人目見た時から , 僕は
彼女に毒されたような気がしてる .
静かに店内に入ってきた彼女に
即座に目を奪われる .
まただ .
ぎゅっと締め付けられたような心臓が
もう持たない , と
泣き叫ぶように悲鳴をあげる .
普通なら案内しなきゃ行けないのに ,
いっぱい空いてるからなんて理由で
贔屓じみた対応 .
良くないね , 僕ってば思っているよりも
態度に出ちゃうみたいで .
また , ふわり .
僕に向かって向けた笑顔に
なんとも言えない感情がとめどなく溢れ出す .
臆病なくせに , 奥手なくせに ,
僕はどうしてこんな , 高嶺の花のような方に
無謀な恋をしてしまったのだろうか .
なるべく彼女には分からないように , って
必死になって隠して , 営業スマイルを振りまく .
彼女が座った席は僕がお気に入りの席で ,
たった偶然がひきおこしたことでさえ
僕は単純なもので嬉しくなってしまう .
彼女が視界から外れれば
僕の頬は緩み放題だ .
いつも来てくれる訳ではなく ,
たまに会えるからこそドキドキする彼女に
今日はどうアピールしようかなんて
奥手なくせに一丁前に考えちゃって
僕ってばバカみたいだ .
鈴を転がしたように愛らしい声が
僕の鼓膜を揺らす .
誰かが行く前に行かなきゃ , って
急いで振り返れば違う人が既に対応していて.
あぁ , やばい . 出遅れた .
なんて ,
彼女のことを考えてしまった
僕自身のせいだけれど .
心臓跳ねた ...
同じバイトのジェミナが
僕にそう話しかけてくる .
彼は顔がいい割に恋愛をしようとしない
僕からしたらずるい存在の人だ .
良い奴なんだけどね .
大胆だって言われたって
行ける!って気になる訳でもないし .
そう言われて弾かれたようにそちらを向く .
彼女はそこまでこのお店に長居をしない .
思っているよりも早く帰ってしまうのだ .
彼女は僕のことなんて覚えていないだろう .
ここのお店の一店員 .
きっとそうとしか思っていなくて ,
それ以上でもそれ以下でもないのだろう .
僕は別にそれでもいいんだ .
自分が望んでした恋だから .
プルプルと震える手が
僕の瞳にとても情けなく映る .
もっと堂々と出来たら ,
自信満々にここに立てたら ,
君の気を少しは惹けただろうか
きっと僕よりも大人で ,
彼氏だって居そうで .
叶いもしない人なのに
声を聞く度に , 姿を映す度に ,
好きだなんて思ってしまう .
その " いつもありがとうございます " が
僕自身に向けられているわけじゃないことも
全部 , 分かっているけれど .
連絡先なんて渡せない .
僕は貰っても困るような
飴玉を2つ彼女に差し出した .
見ず知らずのやつから貰った飴なんて
少し怖いかもしれないのに .
なんて , バカみたいな見え見えの嘘をついて
僕はその場を押し切ろうとした .
気持ちがもっと伝わるようにって ,
強化されないかなって ,
ふたつにしたのに ,
ひとつの飴玉が僕の手元に帰ってきた .
いい香りを漂わせて
僕の目の前からいなくなった彼女は
お店の扉を開けて外に出ていった .
僕の気持ちを , きっと彼女は知らない .
でも , いつか分かってくれないだろうか .
この飴の意味も , 僕の気持ちも














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。