アラン様の誕生日から3日。
思えば、お城での暮らしも早いもので数か月が経ち、仕事の合間に、「今日も頑張ってるね」なんて、お城の人達から声をかけてもらえるようになった。
最初は戸惑うことも多かったアラン様の世話役としての仕事も、自分なりのやり方を見つけ、初めの頃より余裕を持って取り組めるようにもなった。
それに、お城に来る前は、北部を離れることに寂しさと不安があったけれど、こうしてお城で生活しながらも大好きな北部との繋がりを大切にできている今、私は心からここでの生活が好きだって思える。
毎朝目覚めは良好だけど、北部に帰ると決めている日は、特に清々しい気持ちで目が覚める。
大好きな北部の空気を吸えるってのもあるけど、やっぱり一番は北部のみんなに会えるってことが大きい。
北部のみんなは、私の原動力なのかもしれない。
***
いつものように、お城の裏門へやって来た私は、突然の幼なじみの姿にきょとんと首を傾げた。
一瞬、側近の方たちと会議だと聞いて、先日のやり取りが脳裏をよぎった。
"アラン様の結婚"そんな文字を頭の中で浮かべては、必死に消そうと首を振る。
***
─── 数時間後。
ルイと2人で過ごす北部の時間はあっという間で、気づけばもうお昼。
昔はこうしてよく、ルイと一緒に木登りをして、危ないと近所のみんなに心配されたっけ。
いつものように北部のみんなに果物を届ければ、あちこちで私たちを懐かしむ声が聞こえた。
きっと、みんなの中の私とルイは小さい頃のままで、ルイが騎士として早くに北部を離れたこともあり、大人になった私たちが並んでいる光景が見慣れなかったんだろうな。
本当の孫のように可愛がってくれたドロシーおばあちゃんのことが、私とルイは小さい頃から大好きだった。
コンコン、と叩いても、全く開かないドア。
……留守?
もう一度強めに叩いてみても、やっぱりドロシーおばあちゃんは出てこない。
───ガチャ、
ルイによって、小さな音を立てて開くドア。
その先で、ベッドに横たわるドロシーおばあちゃんを見つけ、慌てて駆け寄る。
ゲホゲホと苦しそうに咳き込むドロシーおばあちゃんを置いて帰るなんて、私には絶対にできなくて。
申し訳なさそうに顔を歪めるドロシーおばあちゃんは、寒気を感じるのかわずかに震えている。
ルイの言葉を遮るように、ドアをドンドンと叩く音がする。
開けるとそこにいたのは、城からの知らせを伝える伝令だった。
ドロシーおばあちゃんの手を握って、”早く治して”と告げたルイは、私の頭を軽く撫でると、ドロシーおばあちゃんの家を颯爽と出ていってしまった。
”俺、ソフィアが好き───”
私の心臓はまだ、ドキドキしている。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!