突然のプレゼントに、思わず涙を流しそうになる。
冷たくて少し硬い蓋を開け、
頑丈に接着されている内蓋を外す。
すると、甘いバニラの香りが鼻を掠める。
逸る気持ちを抑えながら、
アイスが容器から溢れないよう慎重に、
ゆっくりとスプーンを突き立てた。
彫刻刀で版木を削った様な感覚が消えぬ間に、
スプーンを口へと運ぶ。
美味しい。
僕の心に負った傷を優しく包み込むような、
もったりとまろやかなバニラの甘さが、
なめらかな舌触りと共に溶けていく。
勿体無いとは思ったが、
甘美なアイスを口の中へ矢継ぎ早に入れ込む。
口から食道、胃へと幸せを一気に行き渡らせると、
さっきまで感じていた心の痛みはどこかへ消えていた。
容器パンパンに詰まっていたアイスは、
あっという間に無くなった。
君が笑うと僕も嬉しい。
それが歪んだ愛情であれ、この事実は変わらない。
宝石みたいな目をキラキラと輝かせてはしゃぐ姿は、
幼少期の言ちゃんに似ていた。
ずっと欲しかった玩具を買ってもらった時に、
二人で大はしゃぎした記憶が蘇る。
棒アイスが落ちないよう、
細心の注意を払って君にアイスを受け渡す。
その時、
ずっと気にしていなかったニュースの音が聞こえた。
近頃、SNSなどで話題となっているハラスメント問題。
○○さんはどうお考えですか?
「企業が対策をする事も重要ですが、
個人の意識を高める事も重要であると思いますね」
「ハラスメントの被害に遭った方は
心に深い傷を負う訳ですし。」
「そもそも...」
僕が働いていた会社は、対策なんてしていなかった。
精神論至上主義でパワハラだらけの上司。
ボディタッチがどんどんエスカレートして、
誰の手にも負えなくなってしまった先輩。
上司と先輩に耐えきれられず、
数ヶ月で退職していった同期。
誰も頼れる人間なんか居なかった。
その所為で、僕は休職まで追い込まれたんだ。
職場では、年中無休で怒号が鳴り響いていた。
職場の人間達は、
沸点が分からない上司の相手をするので手一杯。
誰からもまともに仕事も教えて貰えない状況だったから、
見よう見まねで仕事をこなしていた。
自分で言うのもおかしいけど、
人並みには仕事が出来ていたと思う。
けど、
そんな態度が気に入らない上司にこっぴどく怒鳴られた。
先輩や他の人にも怒号は飛んでいたけど、
1番怒鳴られたのは僕かもしれない。
挙句の果てには、
「お前の全てが仕事に相応しくない」
とまで言われた。
それでも仕事を辞めなかったのは、言ちゃんの為だ。
君の為なら、僕は命を削ってでも働く。
けど、
君と共有しているであろう魂を殺されかけた時、
僕は仕事を休職した。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。