あのメジャー、メモリが擦り切れて読めなくなるまで、
毎日ずっと持ち歩いてたっけ
幼い頃の夢に微睡みながら寝返りを打つと、
朝日の眩しさに顔をしかめ、ノロノロと起き上がる
屋根裏部屋にはカーテンがないので、
朝日がそのまま室内を照らしていた
起床し、身だしなみを整えるよりも先に、
引き出しからコーヒーポットを取り出す
そして無詠唱魔術で水を作り、コーヒーポットに溜めた
魔術で精製した水は少なからず魔力を含んでいるので、
飲料には適さないといわれている
人間の体はあまりたくさんの魔力を溜めておけず、
魔力を含んだ水を大量摂取すると魔力中毒を起こすからだ
だから、普段は井戸で水を汲んでいた
それでも少量なら問題はないだろう
元より七賢人であるから常人よりも魔力許容量が多いのだ
簡単には魔力中毒になったりはしない
ポットに精製した水を注ぎ、コーヒー豆を挽いて
ポットにセットした
更に小さな鉄製の三脚を取り出し、その上にポットを載せて
無詠唱魔術で火を起こす
この小さな火も一定の火力と
位置座標を維持しなくてはならないので
緻密な術式と操作が必要とされるものである
黒猫の姿でベッドをゴロゴロこしていたネロが、
呆れたようにこちらを見た
小声で言い訳し、コーヒーを注ぐ
すると、クズハは机の上に飛び乗り、
金色の目でこちらを見上げる
少し考え、カップのコーヒーを少しだけスプーンですくって
クズハの前に置いた
猫にコーヒーを与えるのは良くないのだろうけど、
クズハは普通の猫ではないから大丈夫だろう
…………多分
王都で流行りの小説家の名前を挙げて、
クズハはスプーンのコーヒーをチロチロと舐めた
途端に、その全身の毛がブワッと逆立つ
クズハはおよそ人間でも猫でも吸血鬼でも発しないような
鳴き声をあげて、机の上をゴロゴロと転げ回った
やはり、舌に合わなかったらしい
クズハはさながら質から生還した戦士のごとく
荒い息を吐くと、顔を見上げた
クズハの言葉を無視して、自分の分のコーヒーを啜った
舌の上を流れる熱くて苦いコーヒーは、
頭をシャッキリ目覚めさせてくれる
ふと、亡き父の言葉が頭をよぎった。
__まずは無駄なものを削ぎ落としてごらん。
そうすると、残った数字は至ってシンプルだ。
無駄って何だろう
例えば
私にとってこの朝のコーヒーは決して無駄なものじゃない
大切なものだ
けれどコーヒーが嫌いな人には、
その習慣は無駄に見えるのだろう
数式ならすぐに答えがわかるのに
人の心の「無駄」を見つけるというのは、
なんと難しいのだろう
またコーヒーを一口啜って、机の上のリボンと
木の実をちらりと見る
今まで髪型なんて気にしたことがなかった。
だから今までの私だったら、リボンなんて無駄なものだ
といい切れただろう
木の実だってそうだ
私は食べることに興味が薄いから、木の実がなければ、
まぁいいやと昼食を抜いていた
木の実をつまんで、ボリボリとかじる
普段は味わって食べていないけれど、
今はなんだかとても大事に食べたい気分だったので
しっかりと味わってから飲み込んだ
雑に褒めると、クズハは
と右足の肉球でこちらををビシリと指した
最後のほうは結構な無茶ぶりである
クズハにとって褒め言葉は無駄ではない
という事実が少しだけうれしい
生きていくのに精一杯なのに無駄を楽しむとは
なかなかに難題だ。
それでも……。
机の上のリボンを手に取る
____困難な挑戦ほど楽しいものだよ、あなたの下の名前(カタカナ)
父の言葉が、優しく蘇った
マジ久しぶりです
受験で余裕なくて放置すみません!!!
これからもっと忙しくなるんで頑張りますけど気長に待っててください













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。