最近妙な感じがする
私の中に、もう1人誰かいるみたいな…
多重人格とかそういうのじゃない
ただ、ふと…
「今、思いっきり虹夏ちゃんを殴ったらどうなるんだろ」
少し前に出た、右手を左手で元の位置に戻す
最近は…本当にこういうことが多くて困る
私の中に、誰かいる
虎のようにじっくりと獲物を狙ってる
何時でも、私を殺せる…虎みたいに…
妄想と現実のギャップにイライラする
どうせ叶わないなら、ずっと夢を見ていたい
「余計なお世話なんだよ」
「今、喜多ちゃんを拒絶したらどうなるの?」
「ビンタでもしてみたら?」
私をなだめるためにちかずく
私は、虹夏ちゃんを突き飛ばす
ドシンと、尻もちを着く
私は慌てて、虹夏ちゃんの腕を掴み起こす
無理やり顔を引き攣らせて笑う虹夏ちゃん
……え?
私……何を……
違うっ!私は……こんなこと……思ったことなんて……ない
私は……ずっと……みんなが好きで……みんなで夢を叶えたくて……
私はスターリーを飛び出る
胃から込み上げてくる生暖かいものを抑えながら
私のせいだ……ずっと心のどこかで思ってたんだ……
最低だ私……
ヒーロー?そんなのになれるわけなかったじゃん……
これ、本心なのかな……私みんなのことそんなふうに思ってたのかな……
「ずっと、ひとりぼっちなんだからね」
「取り柄なんてなんにもないよ」
「ギターだって、お前より上手いヤツなんて五万といる」
「お前を求めるやつなんて居ない」
「伊地知虹夏も、喜多郁代も、山田リョウも、誰もお前なんかに期待してない」
「誰もお前を愛してなんかない」
後藤ひとりは、いらない子
生まれてきてもダメだった、いらない子
ずっと、気分がいいだけの妄想に騙されてただけの、いらない子
手だって……顔だって……体だって……心臓だって……
全部全部……汚くて……要らなくて……
それなら、私生きてる必要なんてないじゃん
虎になんてならなくていい、猫のまま、夢を見たまま死にたい
私は自分の首に手をかけた
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。