第18話

【番外編】ハスクの物語 Part4
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2024/01/28 03:00 更新
ハスク
ア…アル……馬鹿野郎…なぜ来た……
俺様は痛みに呻きながらも、アラスターの深紅の姿をにらんだ。
ハスク
俺様なんかに構うな……あれだけ酷いことを言ったんだぞ……
アラスター
ハスカー? キミには生前からの大きな借りがあるからね。
見捨てるなんてありえないのさ。
アラスター
それよりも………
アラスターの角がゆっくりと肥大化し、
瞳が赤いラジオ針になった。
アラスター
そこのキミ?
私の友人に手を出したからには………
ラジオデーモン
覚悟はできているね?
スティング
う、動くな!
こいつがどうなってもいいのか!?
言ってスティングは、俺様を片手で掴み上げ、もう片方の手で俺様の頭に銃口を突きつけた。

さっき俺様が放り捨てた《天使の武器》だ。
スティング
少しでも怪しい動きをすれば、
こいつの頭を吹き飛ばすぞ!
次の瞬間……死角から振り下ろされた触手が、ギロチンのようにスティングの両腕を切り落とした。
スティング
ギャアアアアア!!!
地面に放り出され、無様に倒れる俺様に、アラスターが手を差しのべた。
アラスター
ところで、さっきの話は考えてくれたかな?
その手をよく見ると、淡く緑色に光っている……。
ハスク
あ! おいテメェ!!
何、どさくさに紛れて《契約》しようとしてやがる!!!
アラスター
おや? さすがはハスカー。
バレてしまったか。
ハスク
あ゛ーーー!
これだからテメェと関わるのは
嫌なんだよ!
ハスク
いいか、よく聞け!
ハスク
俺様は生前から……
ハスク
お前のそういうところがーーー
ハスク
避けろ!!!
俺様は咄嗟にアラスターを突き飛ばした。



スティングの能力なんだろう。
切り落とされた腕の断面が、まるで槍のように鋭く尖り、こちらに向かって伸びてくるのが見えたんだ。
アラスターの胸を貫くはずだったその攻撃は。

俺様の胴体を貫き……穴を空けた………。
スティング
くそ! 仕留め損ねたか!
この野良猫が! 余計な真似を……
次の瞬間。無数の触手が、スティングを文字通り握り潰した。



アラスター
ハスカー?
アラスターが俺様を抱き上げ、顔をしかめた。

俺様の体には、「穴」が空いていたのだ。
ハスク
ハハ……ハハハ………。
こりゃもう助からねえな……。
口から血を吐きながら、俺様は笑った。

心に穴が空いた上に、今度は物理的に体に穴が空くとは……何の冗談だ。
だが、俺様は清々しい気分だった。
ハスク
なあ……アル……?
ハスク
教えてくれよ?
ハスク
地獄で死んだら、
次はどこへ行くんだ? ……ハハッ!
ハスク
…………ざ、……まあ…みろ………
ハスク
今度は……テメェが……置き去りにされる番だ。
アラスター
聞くのだ。友よ。
アラスターが真面目腐って言った。
アラスター
その傷では、もうキミは助からない。
アラスター
だが……
アラスター
私と今すぐに《契約》すれば、私の
魔力を使って命を繋ぐことができる。
アラスター
私と《契約》するのだ。ハスカー。
ハスク
ハッ! お断りだ!
俺様は笑って言ってやった。
ハスク
アル……俺様の…魂は……
ハスク
もう……救いようが……ねえよ………
ハスク
お前らを失ってから………
穴が…空いた……
ハスク
もう……誰のことも………
愛しいとは……思えない……
ハスク
老いぼれて、堕落した……
ハスク
…もう……溺れているんだ………



戦場の土の下に
戦死者の墓に
口から溢れた血の味に
逃げ場などなく
うなだれたまま
失い過ぎて
繋がれた手にーーー


もう溺れたんだ





ハスク
だから………もう………
ハスク
俺様を……楽にしてくれ…………
アラスター
フム……銃弾はまだ一発だけ
残っているようだね。
アラスターが、《天使の武器》であるリボルバー拳銃を拾い上げた。
「ギチッ」とラジオ機材のような音をたて、アラスターの口が笑みに裂けた。
アラスター
ハスカー。
アラスター
キミの大好きなギャンブルと
行こうじゃないか?
チャキ!
ハスク
…………………は?
アラスターは、リボルバーのシリンダーを回転させると、自分自身の頭に銃口を突き付けた。
バン!
アラスター
ついてるね。一発目は“ハズレ”だ。
ハスク
おい! テメエ!
とうとうイカれたか!!?
バン!
アラスター
二発目も“ハズレ”だ。
ハハハ! なかなかスリルがあるね!
ハスク
や、やめろ………!!!
バン!
アラスター
三回連続でハズレ………そろそろかな?
ハスク
テ、テメエ……ふざけるな!!!
ハスク
お前が死んだらあなたは
どうなるんだよ!!?
アラスター
ハスカー? 世界とは劇場であり、
そこで繰り広げられる全ては
エンターテイメントだ。
アラスター
私とあなたが再会し、再び恋に落ちるという大舞台に、キミという重要な役者がいないなんて、ありえない。
アラスター
キミが私との《契約》を拒み、このまま退場するというのなら………私はこのまま、引き金を引いてしまうよ?
ああ……! こいつは狂っている!

わかっていたことじゃねえか!!!
ハスク
このクソラジオ野郎が!!!
チクショウ! 俺様は死んでも
こういう運命かよ!!!
アラスター
それでは《契約》成立かい?
緑色に光る奴の右手を、俺様はヤケクソで握り返した。
ハスク
勘違いするんじゃねえぞ。
テメエのためじゃねえ!
あなたのためだ!
アラスター
ハーーーーハッハッハッハ!!!
ああ! その笑顔がムカつく!!!
こうして俺様はーーー。
アラスターと《契約》した。





ハスク
と、言うわけだ。
あまり面白くもない話だ。
ハスク
ロクデナシの男が、救いようのない
末路に堕ちたってだけのな。
俺様の長い話を、あなたはニコニコと聞いていた。
あなた
は~……うらやましいわ。
私の知らないアラスターを、そんなにたくさん知っているなんて……
あなた
私、なんだかオスカーに嫉妬しそう。
ハスク
はあ? 
今の話のどこを聞けばそうなる?
あなた
気をつけてねオスカー。
あんまり仲良し自慢が過ぎると………
あなた
私の中の《愛の悪魔》が
目覚めちゃうから?
ハスク
おい、目の色が金色になってるぞ。
ああ、天使のようだった妹分が、小悪魔に……これもあいつと結婚した影響か……。
アラスター
やあ、私のいないところで随分と盛り上がっているみたいだねMy Dear。
あなた
アラスター!
ようやくアラスターが姿を現し、カウンターに着くと、あなたを膝の上に抱えてイチャつき始めた。
アラスター
寂しい思いをさせてすまないあなた。
あなた
ううん。お仕事お疲れ様。アル♥️
ハスク
はー……そういうのは二人きりでやってくれ。俺様はもう部屋に戻るぜ。
新婚夫婦の邪魔をするほど野暮ではない。

ましてや、あれだけ運命に引き裂かれた二人が、ようやく結ばれて幸せになったのだ。

口には出さないが、俺様は心からこの結果に満足していた。

あなたのウエディングドレス姿を見て、こっそり涙ぐんだほどだ。
この二人の幸せな結末を見届けられただけでも……

俺様の苦悩に溺れた人生に、
地獄堕ちに、
アラスターとの《契約》に、

意味はあったのだろうか。
あなた
待って、
オスカーも一緒に飲みましょうよ。
アラスター
そうだ友よ。今夜は久しぶりに
三人で語り合おうじゃないか。
振り向くと、そこにアラスターとあなたの笑顔があった。
まだ人間として生きていた時、《ヘヴンズホテル》で過ごしたあの日々と変わらずに。
ハスク
フン、そこまで言うのなら、
今夜は飲み明かすぜ。
俺様は取って置きのボトルを解禁する。


ああ、今夜も俺様はーーーー。
この地獄に酔いしれる。




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