夏の夜風は、思ったよりも涼しかった。
駅前のベンチに座って、少年は新品のパーカーをぎゅっと握る。
――心の奥では、もう全部やめたかった。
でもそんな勇気はなくて、「また今度」って心の中で呟くしかなかった。
段々と夜汽車の音が大きくなる。
その瞬間。
「……咲季?」
振り向くと、そこにいたのは一人の少女。
背中まで伸びた髪が風に揺れて、手には小さなカメラ。
その少女の名は七瀬 未來。
ボクの全てを、ボクよりも知っている少女。
「ねぇ、咲季。行くならわたしも、連れていって。」
「未來……」
ボクは言葉を失った。
未來は、学校の中では優秀で、人気者だったから。
部活とかで忙しいと勝手に思い込んでいた。
「……いいの?」
「もちろん。きみの、咲季のそばに居たいの。」
駅に夜汽車が滑り込んでくる。
ボクの影と未來の影が重なって揺れる。
「……じゃあ、行こうか」
ボクが差し出した手を、未來はそっと握った。
――勇気はない。だから、今はまだ終わらない。
ただ未來の隣で、夏を生きるだけだ。
二人は夜汽車に乗り込んだ。
そして、ボクらの全てを捧げる逃避行が、静かに始まった。
To be continued……












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。