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第1話

Second September 2nd
3
2026/02/01 03:00 更新
朝の光は、昨日と同じ場所に落ちていた。カーテンの隙間から差し込む白は部屋の輪郭をなぞるだけで、意味を持たない。彼女は目を開け、天井の小さな染みを確認してから、ゆっくりと体を起こした。胸は上下し、指先は動く。まだ、生きている。枕元のスマートフォンを手に取ると、画面に表示された日付が視界に入る。September 2。その文字を見た瞬間、胸の奥に説明のつかない違和感が残った。この日付を、すでに一度見たような気がした。

制服に袖を通し、靴を履く。玄関のドアを開ける直前、手が止まった。理由は分からない。ただ、外に出ることが間違いのように思えた。それでも彼女はドアを開け、通学路に足を踏み出す。信号、横断歩道、車の音。朝の街はいつも通りで、彼女だけが場違いな存在のようだった。交差点で信号が青に変わり、一歩前に出たところで、記憶は不自然に途切れる。

次に意識が戻ったとき、彼女はベッドの上にいた。息が詰まり、勢いよく体を起こす。腕や脚を確かめても、何も残っていない。ただ胸の奥に、「終わった」という感覚だけがはっきりと残っていた。スマートフォンを取る。画面には、再び同じ日付。"September 2"。夢ではない、と理解するまでに時間はかからなかった。

机に向かい、ノートを開く。白いページに、震える手で文字を書き込む。
[EnD-01:Ta(TrAffic AcTion)]
書き終えた文字は、ひどく他人事のように見えた。

二度目の朝、彼女は慎重だった。交差点を避け、遠回りをし、車道から距離を取る。世界は何事もなかったかのように続いていて、その静けさがかえって不気味だった。学校に着き、教室に入り、席に座る。何も起こらない。その事実に、わずかな安心が生まれた。午前の授業が終わり、体育の時間だと告げられる。プール、という単語が耳に入った瞬間、胸の奥が冷えたが、理由は分からなかった。

更衣室の空気は湿っていて、水の匂いが強かった。青いタイルが光を反射している。彼女は水に入る。冷たさが足元から広がり、体が慣れていく。避けられた。今日は大丈夫だ。そう思った瞬間、体の感覚がずれた。周囲の音が遠ざかり、水の中が不自然なほど静かになる。光が揺れ、上と下の区別が曖昧になる。助けを呼ぼうとしても、声は出なかった。

次の瞬間、白い光と同じ天井が視界を埋めた。彼女は無言で机に向かい、ノートを開く。
[EnD-02:Dp(Drowning In The Pool)]
ペンを置いた手が、わずかに震えていた。交通事故を避けても、終わりは別の形で現れる。日常の中には、いくらでも潜んでいる。彼女は理解してしまった。これは危険を避ける話ではない。普通の生活そのものが、終端へと繋がっている。ノートを閉じ、もう一度日付を見る。"September 2"。この日は、まだ終わらない。

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