こちらに気づくと、手で合図して
デスクの上の資料を指さす
パリで開催されるファッションショーで
モデルが着用する予定だった
自社ジュエリーが未着
どうやらヒスンは現地の主催者と直接
連絡を取っているらしい
確認を取ると、パリ行きの直行便が
遅延していることがわかった
このままではジュエリーが間に合わない
ヒスンが眉を寄せる
ヒスンが一瞬、口を開いてから
苦い笑みを浮かべる
数秒の沈黙。
やがてヒスンは「…わかった」とだけ言って
再び電話を取った
受話器越しのフランス語が混じる会話が
小さく聞こえてきた
デスクの端に腰をかけ
時計をチラリと見ると
針はすでに21時を回っていた
パリでのショーのためだけに制作したジュエリー
もし届かず、既存のものがショーで
着用されるなら残念に決まっている
でも今できるのはこれくらいしかない
電話を終えたヒスンがこちらへ戻ってきた
そう言って、ほっとしたように肩を落とす
深く息をついて、
散らばった資料をまとめ始めた
一瞬だけ目が合う
ヒスンを期待の眼差しでじっと見つめると
観念したように笑う















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!