逃げたくてたまらなかったはずなのに、私の足はピタリと止まった
どうして呼び止めるの?
私と話したいってそう思ってくれてるの?
深呼吸をして、できるだけ表情を消す
期待をうっかり滲み出てしまわないように、不機嫌そうな表情を顔に張り付けてから振り向いた
ああ、期待してた自分がバカみたい
たらいが私に話しかける理由なんて、セラ夫のことくらいしかないですし、
考えれば、すぐわかったはずなのに…
手短に答えて早々に歩き出すけれど、たらいとは悲しいことに同じクラスだ
歩く方向が同じになるのは当然で、たらいは私の数歩後ろをついてくる
触れようと思えば、触れられるほど近くにいるのに
心は地球の裏側…もしくはそれ以上、遠い
たらいの方は見ずに言い返す
何かと突っかかってくるたらいとは、まだバイト先も同じで、やりにくいったらない
でも、辞める気にもならなくて……
嫌われてても、同じ空間にいれるだけでいい
こんな調子で心の奥にしまい込んだはずの恋心が時々私を惑わそうとする
そのたびに私を苦しめるあなたが嫌いだって、自分に言い聞かせる
ウソと本音の間にあるような感情で、私は君への想いをぼかす…
彼と自分の言葉が、どんどん私の心をすり減らしていく
背後で舌打ちが聞こえた
でも私は、構わず教室に入る












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!