ジルベールが愛を誓ってくれる。
天窓から降り注ぐ光に照らされたジルベールは、完璧な王子様といった佇まいだ。参列客からも感嘆の声が「ほう……」と上がっている。
そこで大声を上げたのはレオンだった。
予定になかった闖入者に会場の空気がピリッと震える。
レオンを挟む騎士たちが彼を黙らせようとしたが――立ち上がったレオンは再び声を上げた。
ジルベールが当然だと言わんばかりに答える。
周囲の人は――もちろん私も、レオンが「俺は断じて認めない!」と言って飛び込んでくることを警戒したのだが……。
絞り出すような声に、会場中が彼に同情した。レオンとジルベールが私を巡って決闘をした……という話は周知されているらしい。
心から私の幸せを祈ってくれる様子に、私も少し心打たれてしまいそうになる。
緊張を解いたジルベールも何か感じ入るところがあったようで……。
そんな中、私の視界の端にはひらりと動くものを捕らえた。
以前、私が脱出を試みた窓だ。誰かの手が横切る。私はそっと、ドレスの裾をたくし上げる。
天井から何かがポトリと落ちた。
私とジルベールのやや後方に落ちた「何か」は、ぱしゅっと音を立てて破裂し――周辺を白く染めた。スモークのように辺りの視界が急に悪くなる。ひんやりとしているのは氷の魔術で作った仕掛けだからだろう。
ぱしゅっ、ぱしゅっ、と至る所で音が聞こえだし、聖堂の中はたちまち真っ白になった。
私は素早くジルベールの手をかわすと、先ほど合図のあった窓の方に向かってダッシュした。
窓を開けると同時に、外に待機していたアンリが追加でドライアイス球を投げ込む。その間に私は窓を乗り越えた。
客たちがパニックになる声を背に、私はその場から逃げ出す。
アンリから渡された荷物を手に、大きめの茂みの中に身を隠した私は、素早くウエディングドレスを脱ぎ捨てた。……実は着付けてもらうときに「体調が悪いから、締め付けを緩くしてほしい」とお願いしておいたのだ。そうじゃないと、コルセットでぎゅうぎゅうにウエストを締め付けられて苦しいのなんのって……。
挙式中に私が酸欠で倒れたら困ると思われたのだろう。かなり緩めて着付けてくれたので、一人でも脱ぐことができた。
アンリから渡されたのはこの城のメイド服だ。
被って着る黒いワンピースに、白いエプロン、白のキャップを被る。その間に、私が脱ぎ捨てたウエディングドレスは、アンリが炎の魔術で燃やしてしまった。もったいないけれど、仕方がない。
聖堂の中は白い煙で充満しており、困った客たちが席を立ってウロウロしているせいで、なかなか騎士たちが外へと出られないようだ。その隙に、私は走って城へと向かう。
――騎士たちはきっと「ウエディングドレス」を着た私を探すだろう。主に外や、手近な通用口に向かうはず。
私が考えた作戦は、結婚の誓いを立てるタイミングでアンリにひと騒ぎ起こしてもらい、その隙に逃げ出すというものだ。
ドレスはその場に脱ぎ捨てて、アンリに準備してもらったメイド服に着替える。騎士たちが外を捜索する中、私は何食わぬ顔をして城に戻り、使用人用の裏口から外へ出るのだ。
アンリにも立場があるだろうから、彼とはここで別れることになっている。
……のだが。
うまく裏口から脱出した私を、なぜかアンリが迎えに来た。
駆け出すアンリに手を引かれる。
まるで駆け落ちをする男女のように走らされる。城からは離れないといけないのだから、アンリの行動は正しいのだけど……。
もみくちゃになった聖堂の中、レオンは前方の窓が少しだけ開いたように見えた。
もはや、自分の見張りの騎士たちも、事態の収束のために立ち上がっている。レオンはその隙に、どうにか前方へ移動しようとした。開いた窓から差し込む光が、きらりと何かを反射させる。
皮肉にも、ジルベールがミコに贈った指輪だった。
真っ白の、わさわさしたレースの塊が窓を乗り越えていくのが見えた。
誰かがそれを手助けしているように見えるが、すぐに白い煙で何も見えなくなった。
押し合いへし合いの中、レオンはミコが逃げ出した窓に辿り着き、そこから外へと出た。ウエディングドレス姿の女性はいないが、代わりに、メイドが一人、城に向かって駆けて行くのが見える。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。