第22話

22、ガラスの棺で眠るミコ
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2025/12/19 09:00 更新
近づいてきた人物が私の頬に触れ、私は恐怖でどうにかなりそうだった。
身体はぴくりとも動かず、相手からは私が眠っているようにしか見えないだろう。
ミコ
ミコ
(こ、怖い――)
ちゅっ。
口付けられると、金縛り状態だった筋肉が一斉に緩むのを感じた。私の瞼がぱちっと押し上げられる。

そこにいたのはポムだった。
ミコ
ミコ
ポム……⁉ あ、身体が、動く……!
ミコ
ミコ
助けに来てくれたの? ありがとう……
お礼を言うとポムはにこっと微笑んだ。
ジルベールの護衛たちに狙われていたが、無事に逃げ切れたらしい。
ミコ
ミコ
(ところでポム、今、私にキスしたよね……?)
唇を押さえてしまうが、当の本人にはなんの下心もなさそうなので、……深く追求するのはやめた。
私の身体を縛っていた魔術はキスによって解けるものだったということでいいのだろうか。ジルベールが言い出したのか、アンリが考えたのかわからないが……まったく、ろくでもない魔術だ。
ミコ
ミコ
でも、城に運ばれたのはかえってラッキーだったかも。魔王の魔力が庭にあるって話だったよね?
ポム
ポム
(うん、行こう)
ポムに手招きされ、彼と手を繋ぐ。
聖堂の鍵は外されており、護衛はポムによって眠らされていた。外は真っ暗だが、私たちは月明かりを頼りに歩く。
ポムは庭師として潜り込んでいただけのことはあり、抜け道をたくさん知っていた。巡回中の兵士たちの目に触れないように迂回し、庭へとたどり着く。
忍者のようにこそこそと移動しながら、私はポムの行く場所になんとなく目星がついていた。

庭園にある、りんごの若木だ。
ポムがくれたりんごは、これまで何度も私と魔王のことを思い出させてくれた。
ミコ
ミコ
このりんごに魔王の魔力が宿っているの?
ポム
ポム
(うん、たべて)
予想通りだ。月明かりの下、艶々と輝くりんごをポムが取ってくれる。
渡された私は、りんごを齧った。
甘酸っぱい果汁を感じながら目を閉じると、大切な記憶が蘇ってくる。
私が初めてレグルスと会ったのは、「魔王が王都に向かう橋に居座っている」という情報を受けてのことだった。魔王は魔物たちを従えており、商人たちは橋の前で立ち往生してしまっているとのことだった。
ミコ
ミコ
ジル、私、行ってくるね
ジルベール
ジルベール
頼む、ミコ。すぐに精鋭部隊を用意する
レオン
レオン
ジルベール様。俺も同行します
アンリ
アンリ
私も行きましょう。魔王は高度な魔術の使い手ですから
私がこの国に召喚されたのは、魔王と戦うため――。
初めはそう聞かされて怖かったけれど、ジルベールやレオン、アンリ、城にいる人々も、街の人たちも皆優しくしてくれて……。この人たちを守りたい。自然にそう思えるようになっていた。
この日のために、魔術も武術もたくさん練習したのだ。
私は意気揚々と魔王の元へ向かい――そこで、レグルスに出会った。
ミコ
ミコ
あなたが魔王?
レグルス
レグルス
いかにも。お前は「聖乙女」だな
ミコ
ミコ
はい、そうです
橋の上で距離を保ちながら会話をする私たちは、端から見たら一触即発といった雰囲気だろう。魔物たちはレグルスの背後でグルルル……と唸り、今にもこちらに襲い掛かってきそうだ。
私は恐ろしい気持ちを隠しながら、毅然とした態度をとった。
ミコ
ミコ
魔物たちを退けてくれませんか? 通れなくて困っている人がいるんです
レグルス
レグルス
構わない
ミコ
ミコ
……えっ、いいんですか?
あっさりOKをもらって拍子抜けしてしまった。
魔王がぱちりと指を鳴らすと、魔物たちは姿を消す。
レグルス
レグルス
魔物たちを呼び込んだのはただの茶番だ。聖乙女、お前を呼び出すためのな
ミコ
ミコ
私を……呼び出すため?
レオン
レオン
こざかしい。ミコを嵌めようと罠を張ったつもりか?
レグルス
レグルス
黙れ、人の子よ。俺が用があるのは聖乙女だけだ
レグルスが手を振ると風が起きた。レオンたちは後方に吹っ飛ばされる。その隙に、魔王は私の目の前まで来ていた。
ミコ
ミコ
(いつの間に……!)
レグルスが私に手を伸ばしたので、身構えてしまったが……。
レグルス
レグルス
聖乙女、俺はお前と争う気はない
ミコ
ミコ
え?
レグルス
レグルス
「この世界に危機が現れた時に聖乙女が召喚される」だったか? くだらない人間の伝承に興味はない。過去、この国を侵略しようと考えた魔王もいたようだが、少なくとも俺にその気はない。今日はそれを伝えに来たのだ
ミコ
ミコ
あなたが悪い事をしないのなら、私も争う気はないよ
正直、戦わないに越したことはない。
魔王側から申し出てもらって、私は肩の荷が少し下りたくらいだ。
そんな私の様子に、レグルスは憐憫の目を向けてきた。
レグルス
レグルス
ふん。かわいそうにな。
何もわからずに異世界から召喚されたのだろう? 聖乙女として祀り上げられて気の毒な娘に鞭打つような真似はしない
そう言ってレグルスは消えた。
ミコ
ミコ
(気の毒な娘……)
レオン
レオン
ミコっ!
アンリ
アンリ
大丈夫ですか? 何を言われたんです?
ミコ
ミコ
え? あ、えと、魔王は私たちと争う気はないって……
アンリ
アンリ
なんですって? 魔王がそう言ったんですか?
レオン
レオン
ふっ。きっと、ミコを見て敵わないと悟ったんだろう。さすが聖乙女だ
騎士
おお! 聖乙女様が魔王を退けたぞ!
老人
さすが聖乙女様!
集まって来た騎士や住人たちは喜んでくれていたが……。
ミコ
ミコ
(うーん、どちらかというと同情されたような?)
ミコ
ミコ
(聖乙女として祀り上げられて、か……)
その後、城に戻った私たちが報告すると、ジルベールも王様もすごく感謝してくれた。
だけど、別に私は何もしていない。
そう言っても、ミコの清らかな気に当てられたのだろうとか、聖乙女がいるから安泰だとか言われて、なんだか凄く複雑だ。
ジルベール
ジルベール
ミコ、どうしたんだ? 浮かない顔をして
ミコ
ミコ
あっ、ううん。なんでもないよ
ジルベール
ジルベール
疲れてしまったのではないか? 今日はもう休んだらどうだ?
ミコ
ミコ
うん。そうしようかな……
皆、私に親切にしてくれて、聖乙女だから凄い力もあって……、多分この世界にいたら、人生超イージーモードだろう。
魔王を倒す必要もなくなった。

じゃあ、私がここにいる意味って何なのだろうか?
ミコ
ミコ
魔王……。もう少しゆっくり話したかったな
部屋で溜息をつくと――
レグルス
レグルス
呼んだか?
ミコ
ミコ
うわぁぁぁぁ!
いつの間にか、すぐ側にレグルスが立っていた。
叫ぶ私に、彼は迷惑そうな顔をしていた。

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