騎士たちの後からゆっくりと入ってきたのはジルベールだった。
うっすらと微笑んだジルベールに視線を向けられたアンリとレオンの喉が上下した。
だが、すぐにレオンは私を庇うように前に立つ。
レオンが覚悟を決めたような顔で私を抱き寄せた。肩に置かれた手に「ちょっと……!」と言おうとして口を噤む。レオンは短剣を手にしており、その切っ先を私に向けていたのだ。
心中を宣言された私は、状況も忘れて突っ込んだ。
私はレオンと心中する気なんてない!
しかし、私の身体はしっかりとレオンによって固定されており、動くと刃先が喉に当たった。首の皮が切れた痛みを感じ、レオンが冗談を言っているわけではないと悟る。
アンリもレオンを諭そうとするが、レオンはまっすぐにジルベールを見ていた。
レオンが短剣を離してくれたが、真横に当てていたナイフを、私の喉に垂直になるように向け直して……、
私が叫ぶと、レオンは吹き飛ばされた。
……聖乙女の力だ。
倒れたレオンに間髪入れずに攻撃を放ったのはアンリ、そして、いつの間にか現れていたポムだった。ポムは私の無事を確認するように抱きしめ、その場から連れ去ろうとしてくれたが、ジルベールの護衛たちに取り囲まれて剣を突き付けられた。
ポムは私と離れて逃げた。
私が戦いに巻き込まれないようにしてくれたのだ。
だが、私は何者かに背後から頭を殴られることになる。
アンリだった。
よろめく私を抱きとめたアンリに、手刀を叩きこまれる。
ポムが苦しそうに撤退していく様子を見ながら、私は意識を手放してしまう。
ゆらゆらと揺れる中、私の意識は覚醒した。
何か、硬い場所に寝かされて運ばれているようだ。
ゆらゆらするのは兵士たちが運んでいるかららしい。移動する複数人の足音やアンリの声が聞こえたことから、目は開けずに気絶しているふりを続けることにした。
どうやら、レオンはこの場にはいないようだ。
ゴトッ、ゴトッ、ゴトン。
扉が開く音がする。
ここはどこなんだろう。ジルベールがいるということは、城に連れ戻されたのだろうか。
目を閉じたまま状況を探ろうとする私の耳に、とんでもない話が聞こえてきた。
ゴットン。
私が寝かされている入れ物が置かれた。
複数の足音は遠ざかっていき、ぎいい、ばたん、がちゃがちゃ……と扉に鍵をかけている音が響いて聞こえる。
……私が目覚めた時、ジルベールたちは自らを「恋人」だと名乗った。
魔王との記憶を消す魔術をかけたから、私が三人のうちの誰かを選ぶと期待したのだろうか。
誰のことも覚えてないのはショックだったみたいだけど、それなら「また好かれればいい」と考えて、私に迫ってきていたのだ。
「魔王と恋仲だった」という真実は隠したまま……。
このまま記憶を消されるなんて冗談じゃない。
私は身体を動かそうとした。けれど。
金縛りにあったみたいに指一本動かせない。
なんらかの魔術がかけられているのだろうか。一生懸命身体に力を入れているのに、苦悶の表情一つ浮かべられないなんて。
焦る私の耳に、誰かの足音が聞こえた。
コツ、コツ、コツ、コツ……。
足音は迷いなく近づいてくる。
アンリ? それともジルベール?
コツッ、と足音がすぐ側で止まる。
誰だかわからなくて恐ろしい。跪いたような衣擦れの音が聞こえる。
私に、誰かが手を伸ばす……。
















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。