第21話

21、絶体絶命?
958
2025/12/12 09:00 更新
騎士たちの後からゆっくりと入ってきたのはジルベールだった。
ジルベール
ジルベール
見つけたよ、僕の花嫁
ジルベール
ジルベール
どうしてここに、アンリとレオンもいるのかな?
うっすらと微笑んだジルベールに視線を向けられたアンリとレオンの喉が上下した。
だが、すぐにレオンは私を庇うように前に立つ。
ジルベール
ジルベール
どけ、レオン
レオン
レオン
…………
ジルベール
ジルベール
僕に負けた時のことを忘れたのか?
ミコ
ミコ
レ、レオン……
レオン
レオン
大丈夫だ、ミコ。
望まない結婚なんてしなくていい
ミコ
ミコ
え?
レオンが覚悟を決めたような顔で私を抱き寄せた。肩に置かれた手に「ちょっと……!」と言おうとして口を噤む。レオンは短剣を手にしており、その切っ先を私に向けていたのだ。
ミコ
ミコ
え、ちょ……
レオン
レオン
愛するミコとの仲を引き裂かれるくらいなら、俺はここでミコと一緒に死ぬ
ミコ
ミコ
はいぃ⁉
心中を宣言された私は、状況も忘れて突っ込んだ。
私はレオンと心中する気なんてない!
しかし、私の身体はしっかりとレオンによって固定されており、動くと刃先が喉に当たった。首の皮が切れた痛みを感じ、レオンが冗談を言っているわけではないと悟る。
ミコ
ミコ
ちょ、ちょっと、レオン。落ち着いてっ……
アンリ
アンリ
馬鹿なことはやめなさい、レオン君
アンリもレオンを諭そうとするが、レオンはまっすぐにジルベールを見ていた。
レオン
レオン
あなたに奪われるくらいなら……
ジルベール
ジルベール
っ! やめろ、レオン!
ミコ
ミコ
う、嘘でしょ。レオン、本当に、落ち着いてよ……
レオンが短剣を離してくれたが、真横に当てていたナイフを、私の喉に垂直になるように向け直して……、
ミコ
ミコ
い、いやーっ!
レオン
レオン
――――ぐうっ!
私が叫ぶと、レオンは吹き飛ばされた。

……聖乙女の力だ。

倒れたレオンに間髪入れずに攻撃を放ったのはアンリ、そして、いつの間にか現れていたポムだった。ポムは私の無事を確認するように抱きしめ、その場から連れ去ろうとしてくれたが、ジルベールの護衛たちに取り囲まれて剣を突き付けられた。
ジルベール
ジルベール
貴様……、魔王の手先だな!
騎士
かかれ!
ポムは私と離れて逃げた。
私が戦いに巻き込まれないようにしてくれたのだ。

だが、私は何者かに背後から頭を殴られることになる。
ミコ
ミコ
っ、い……!
アンリだった。
よろめく私を抱きとめたアンリに、手刀を叩きこまれる。
アンリ
アンリ
……
ミコ
ミコ
(アンリ、どうして……)
ポムが苦しそうに撤退していく様子を見ながら、私は意識を手放してしまう。
アンリ
アンリ
申し訳ありませんでした、ジルベール様
ミコ
ミコ
(……ん? アンリ……?)
ゆらゆらと揺れる中、私の意識は覚醒した。
ミコ
ミコ
(私……、そうか。さっきの騒ぎでアンリに気絶させられて……。それで、どこかに運ばれている?)
何か、硬い場所に寝かされて運ばれているようだ。
ゆらゆらするのは兵士たちが運んでいるかららしい。移動する複数人の足音やアンリの声が聞こえたことから、目は開けずに気絶しているふりを続けることにした。
アンリ
アンリ
逃げたミコを追っていたら、レオン君までついてきてしまい……。なるべく、彼を刺激しないようにしていたのですが
ジルベール
ジルベール
ふん。言い訳はいい
ジルベール
ジルベール
お前を連れ戻した意味はちゃんと理解しているだろうな
アンリ
アンリ
もちろんです
どうやら、レオンはこの場にはいないようだ。
ミコ
ミコ
(アンリっては、しれっと私を連れ出した罪をレオンに擦り付けたわね……)
ゴトッ、ゴトッ、ゴトン。

扉が開く音がする。

ここはどこなんだろう。ジルベールがいるということは、城に連れ戻されたのだろうか。
目を閉じたまま状況を探ろうとする私の耳に、とんでもない話が聞こえてきた。
アンリ
アンリ
今度こそ、ミコから魔王の記憶を消します
アンリ
アンリ
前は失敗しました。ミコを捕らえた時に魔王の記憶だけを消したつもりなのですが、まさか我々のことまで忘れてしまっているとは……
ジルベール
ジルベール
目の前で魔王が倒されたのがよほどショックだったのだろう。この世界に来た時の記憶から忘れてしまっているとは……
ジルベール
ジルベール
だが、かえってその方が好都合だったな。何もかも忘れてもう一度やり直せるのなら、今度こそ僕はきみを手に入れてみせる
アンリ
アンリ
…………
アンリ
アンリ
忘却の魔術は、魔力が最も高まる満月の夜に施すのが望ましいです。それまでの間、ミコは……
ジルベール
ジルベール
ああ。この聖堂でおやすみ、眠り姫
ゴットン。
私が寝かされている入れ物が置かれた。
複数の足音は遠ざかっていき、ぎいい、ばたん、がちゃがちゃ……と扉に鍵をかけている音が響いて聞こえる。
ミコ
ミコ
(……記憶を消す?)
ミコ
ミコ
(じょぉぉぉぉだんじゃないっ!)
……私が目覚めた時、ジルベールたちは自らを「恋人」だと名乗った。

魔王との記憶を消す魔術をかけたから、私が三人のうちの誰かを選ぶと期待したのだろうか。
誰のことも覚えてないのはショックだったみたいだけど、それなら「また好かれればいい」と考えて、私に迫ってきていたのだ。
「魔王と恋仲だった」という真実は隠したまま……。

このまま記憶を消されるなんて冗談じゃない。
私は身体を動かそうとした。けれど。
ミコ
ミコ
(あ? あれ? 目が開かない。身体も……動かない⁉)
金縛りにあったみたいに指一本動かせない。
なんらかの魔術がかけられているのだろうか。一生懸命身体に力を入れているのに、苦悶の表情一つ浮かべられないなんて。

焦る私の耳に、誰かの足音が聞こえた。

コツ、コツ、コツ、コツ……。
足音は迷いなく近づいてくる。
ミコ
ミコ
(さっき、この扉に鍵はかけられたはず……。中に誰か残っていたの?)
アンリ? それともジルベール?
コツッ、と足音がすぐ側で止まる。
誰だかわからなくて恐ろしい。跪いたような衣擦れの音が聞こえる。
私に、誰かが手を伸ばす……。

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