t.h
拠点は、いつも通りだった。
モニターは静か。
空気も落ち着いている。
洸人も意識を取り戻し、柾哉が横で腕を組んでいる。
誰も声を荒げていない。
――なのに。
ひとりだけ、異様に静かだった。
高塚大夢。
ソファの端に座り、指先をじっと見つめている。
理人「大夢?」
柔らかい声。
大夢が顔を上げる。
大夢「ん?」
笑っている。
完璧な笑顔。
理人「大丈夫?さっきから全然喋ってないけど」
大夢「うん、大丈夫だよ」
その声が、少しだけ薄い。
その時。
モニターが小さく点滅する。
next subject : t.h
emotional amplification protocol
洸人が眉をひそめる。
洸人「……大夢」
柾哉も画面を見る。
柾哉「今度は大夢か」
大夢は立ち上がる。
大夢「へえ、僕なんだ」
あまりに冷静。
理人が一歩近づく。
理人「大夢、ちょっと待って」
大夢の視線が、理人に向く。
その瞬間。
画面が赤く変わる。
trigger detected : r.ikezaki
dependency index rising
洸人「……は?」
柾哉「理人がトリガー?」
理人が固まる。
理人「俺?」
大夢の呼吸が、少し速くなる。
でも笑っている。
大夢「理人は、関係ないよ」
モニター。
protect target at all cost
self-sacrifice parameter unlocked
洸人が舌打ちする。
洸人「最悪だな」
柾哉「感情増幅型だね」
理人「何それ」
大夢が理人の腕を掴む。
強い。
理人が驚く。
理人「大夢?」
大夢「理人は大丈夫だから」
理人「何が?」
大夢「僕が守る」
声が優しすぎる。
でも、目が揺れている。
dependency index 72%
increase
大夢の頭の中に声が響く。
「理人を守れ」
「理人が傷つく可能性を排除しろ」
「自分は不要」
大夢の指が震える。
大夢(心の声)
理人が無事ならいい。
僕は、どうなっても。
理人が大夢の肩を掴む。
理人「ちょっと待てって」
大夢が理人を見る。
その瞳に、異様な光。
大夢「理人、危ないから下がって」
理人「誰が危ないんだよ」
self-erase sequence primed
洸人が立ち上がる。
洸人「柾哉、止めるぞ」
柾哉「理人、離れろ!」
理人「離れへん」
即答。
大夢の体がふらつく。
dependency index 89%
大夢「……理人」
声が、崩れる。
大夢「ごめんね」
理人「は?」
大夢「守るから」
理人が強く抱きしめる。
理人「いらないよそんな守り方」
大夢の呼吸が止まる。
理人の声が、震えている。
理人「俺はお前の隣にいるんだ」
大夢の目から、初めて涙が落ちる。
index fluctuation detected
emotional override
洸人が息を呑む。
柾哉「……戻るぞ」
大夢の肩が震える。
大夢「僕、いなくてもいいって思った」
理人「バカ」
理人の額が、大夢の額に触れる。
理人「お前がいらないと困る」
大夢の呼吸が乱れる。
dependency index 40%
unstable
警告音が止む。
モニターが静かになる。
phase2 : t.h incomplete
trigger stabilized
大夢が崩れ落ちる。
理人が支える。
理人「大夢」
大夢は、弱く笑う。
大夢「理人、重い」
理人「うるさい」
モニターが再び光る。
remaining subjects : o.t
拠点が静まる。
柾哉が呟く。
柾哉「……終わってない」
洸人が低く言う。
洸人「次は匠海だな」
空気が、張り詰める。
続く。
口調ムズい。分からん。











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!