ルカは声を上げた。
十五、六歳くらいの少女は明らかにほっとしたような顔で駆け寄ってくる。
サッとルカの身体に視線を走らせ、「立てるかい?」と尋ねてきた。
少女はルカに手を差し伸べた。
ルカはわずかに悩む。
どうせ自分の命はあと僅かで尽きる。
見ず知らずの少女を巻き添えにするのは気が引けたが、かといって断るのもおかしい。
結局、少女の手を借りて立ち上がったルカだが、右足の痛みでよろめいた。
痛めている右足側に移動した少女は、自分の肩にルカの手を回した。
ありがたく掴まりたいところだが、そうもいかない事情がある。
身体を支えられるが、ルカはソフィーのことが心配になった。
不可抗力だ。キスしたり抱き合ったりしているわけではない。だが、令嬢の手を握っただけでソフィーに苦しみがいくようになっているのなら、今頃、ソフィーは苦しんでいて、そして呪いが解けていないことに気づいてしまったかもしれない。
そう思う反面、ルカの心には黒い感情が湧いた。
悲しんでほしい。
ルカがいなくなって、ぐちゃぐちゃに泣くソフィーの顔が見たかった。
幸せになってほしいという願いとは矛盾しているのはわかっているが、あっさりと忘れ去られてしまうのは嫌だ。
ほんの少しでも、ソフィーにとっての「特別」だったと思いたい。
痛みをこらえながら連れていかれた少女の家は山小屋のようだった。
切り開かれた場所に建てられ、小さいながら畑もある。
濁した言い方をしたがルカはなんとなく事情を察した。
山間の集落、若い女が一人……とくれば、お節介な隣人たちは結婚相手を世話したがるだろう。狭い集落ならば断わりづらく、逃げ出してきたのかもしれない。
ベッドに座るように促される。
少女は鍋に湯を沸かしたり、布を準備したりと手際がいい。
テーブルの上には弓の手入れに使っているのであろう蜜蝋や矢尻が置いてある。その一方で、自分で作ったのであろう簡易ドレッサーの前には紅の入った入れ物や綺麗なハンカチなどが置いてあり、年頃の少女らしさも感じられた。一人で暮らしているのは本当のようだ。
とりあえず偽名を名乗った。
ルカに対して害意があるようには見えなかったが念のためだ。
ジェシカはルカの足に添え木をして固定してくれた。
結構腫れると思うと断言されたが、すでにジンジンと熱を持ち始めていた。
それから、崖から落ちた時に枝に引っ掛けて傷ついた肌に消毒液をつけてくれる。服もあちこち破れてぼろぼろだ。
頬の傷に消毒液をつけられたルカは「いて」と声を漏らしてしまった。
ぐいっとルカの顔を掴んだジェシカが世話を焼く。
化粧映えしそうな、目鼻立ちのはっきりとした美人だ。以前のルカなら喜んで手を出していただろう。
この部屋には時計がない。外は真っ暗だ。
ジェシカはそう言ってルカのためにお茶を淹れてくれる。
何の事情もなければジェシカの言う通りにしたいところだが、ここで0時を迎えるわけにもいかない。
今、ルカが出ていくといえば間違いなくジェシカは止めるだろうし、追いかけてくるかもしれない。
この子は自分が何を言っているのかわかっているのだろうか。
いやいやいや。
沸かしたお湯に手拭いを浸し、ジェシカはルカに服を脱ぐように促した。
笑われて唖然としてしまう。
数々の令嬢と浮名を流してきた自分が、何を純情ぶっているんだ。
これまでのルカなら喜んで色っぽい雰囲気に持って行っただろうし、ルカに触れるジェシカは明らかに誘っていた。身体を拭くなんて言いながら、はだけさせた素肌をつうっとなぞられる。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。