第27話

思わぬ出会い(side:ルカ)
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2024/09/22 11:00 更新
ルカ
ルカ
生きてるよ
ルカは声を上げた。
十五、六歳くらいの少女は明らかにほっとしたような顔で駆け寄ってくる。
あ、良かった……。誰か落ちたな、と思って見に来たんだけど……
サッとルカの身体に視線を走らせ、「立てるかい?」と尋ねてきた。
ルカ
ルカ
……きみはこの辺りの子?
そうだよ。向こうにあたしの家がある。あんたは――その恰好、貴族だよね。お付きの者はどうしたんだい?
ルカ
ルカ
んー……。ちょっと訳ありで。
俺一人なんだ
ふうん、そう。ともかく、こんなところにいたら危ないよ
少女はルカに手を差し伸べた。
掴まって。ひとまず、怪我の手当てをしなきゃ
ルカ
ルカ
……
ルカはわずかに悩む。

どうせ自分の命はあと僅かで尽きる。

見ず知らずの少女を巻き添えにするのは気が引けたが、かといって断るのもおかしい。

結局、少女の手を借りて立ち上がったルカだが、右足の痛みでよろめいた。
ルカ
ルカ
う、っ……
折れてる?
ルカ
ルカ
どうかな
無理しなくていいから、あたしに掴まりな
痛めている右足側に移動した少女は、自分の肩にルカの手を回した。
ありがたく掴まりたいところだが、そうもいかない事情がある。
ルカ
ルカ
平気だよ
何言ってんの。平気なわけないだろ、ほら!
身体を支えられるが、ルカはソフィーのことが心配になった。

不可抗力だ。キスしたり抱き合ったりしているわけではない。だが、令嬢の手を握っただけでソフィーに苦しみがいくようになっているのなら、今頃、ソフィーは苦しんでいて、そして呪いが解けていないことに気づいてしまったかもしれない。
ルカ
ルカ
(あーあ……。何も言わず、格好よく去りたかったのに)
そう思う反面、ルカの心には黒い感情が湧いた。

悲しんでほしい。
ルカがいなくなって、ぐちゃぐちゃに泣くソフィーの顔が見たかった。

幸せになってほしいという願いとは矛盾しているのはわかっているが、あっさりと忘れ去られてしまうのは嫌だ。

ほんの少しでも、ソフィーにとっての「特別」だったと思いたい。

痛みをこらえながら連れていかれた少女の家は山小屋のようだった。

切り開かれた場所に建てられ、小さいながら畑もある。
ルカ
ルカ
こんなところで……、女の子が一人暮らし?
まあね。前は集落に住んでたんだけど、人付き合いとか……煩わしくって。
あたし、狩猟の腕はいいんだ。
獲物で物々交換したり、自給自足したり、一人でも全然暮らせるから
濁した言い方をしたがルカはなんとなく事情を察した。

山間の集落、若い女が一人……とくれば、お節介な隣人たちは結婚相手を世話したがるだろう。狭い集落ならば断わりづらく、逃げ出してきたのかもしれない。
さ、座って。傷の手当てをしよう
ベッドに座るように促される。

少女は鍋に湯を沸かしたり、布を準備したりと手際がいい。

テーブルの上には弓の手入れに使っているのであろう蜜蝋や矢尻が置いてある。その一方で、自分で作ったのであろう簡易ドレッサーの前には紅の入った入れ物や綺麗なハンカチなどが置いてあり、年頃の少女らしさも感じられた。一人で暮らしているのは本当のようだ。
ジェシカ
そういえば、まだ名前を聞いていなかったよね。あたしはジェシカ
ルカ
ルカ
俺は、……フレッド
とりあえず偽名を名乗った。
ルカに対して害意があるようには見えなかったが念のためだ。
ジェシカ
ふーん。王都から来たんだよね
ルカ
ルカ
そんなとこ
ジェシカはルカの足に添え木をして固定してくれた。

結構腫れると思うと断言されたが、すでにジンジンと熱を持ち始めていた。

それから、崖から落ちた時に枝に引っ掛けて傷ついた肌に消毒液をつけてくれる。服もあちこち破れてぼろぼろだ。
頬の傷に消毒液をつけられたルカは「いて」と声を漏らしてしまった。
ジェシカ
こら、逃げるんじゃない
ぐいっとルカの顔を掴んだジェシカが世話を焼く。
化粧映えしそうな、目鼻立ちのはっきりとした美人だ。以前のルカなら喜んで手を出していただろう。
ルカ
ルカ
ねえ。
……今、何時かわかる?
この部屋には時計がない。外は真っ暗だ。
ジェシカ
え? どうだろう。二十二時は越えてると思うけど
ルカ
ルカ
二十二時……
ジェシカ
今夜はここに泊まりなよ。家に連絡を入れたいのかもしれないけど、この暗さじゃ何もできないよ
ジェシカはそう言ってルカのためにお茶を淹れてくれる。
ルカ
ルカ
(まいったな)
何の事情もなければジェシカの言う通りにしたいところだが、ここで0時を迎えるわけにもいかない。
ルカ
ルカ
(寝たふりをしてこっそり夜中に出ていくしかないか)
今、ルカが出ていくといえば間違いなくジェシカは止めるだろうし、追いかけてくるかもしれない。
ルカ
ルカ
いろいろとありがとう、ジェシカ。今夜は床にでも寝かせてもらっていいかな?
ジェシカ
気にしなくていい。それに、あんたは細身だし、一緒にベッドで寝ればいいじゃないか
ルカ
ルカ
え?
この子は自分が何を言っているのかわかっているのだろうか。
ルカ
ルカ
(田舎じゃ、男女が一緒に寝るのって普通なのか?)
いやいやいや。
ルカ
ルカ
ジェシカの家なんだから、ベッドはきみが使って。それに俺、泥だらけで汚いし
ジェシカ
ああ、……さすがに男物の着替えはないからね……。汚れが気になるならあたしが拭こう
沸かしたお湯に手拭いを浸し、ジェシカはルカに服を脱ぐように促した。
ルカ
ルカ
いやいや、待って⁉
ジェシカ
なんだい? 別に恥ずかしがることなんかないだろう
ルカ
ルカ
恥ずかしいよ⁉
ジェシカ
貴族のお坊ちゃんは女と触れ合ったことがないのかい?
笑われて唖然としてしまう。
数々の令嬢と浮名を流してきた自分が、何を純情ぶっているんだ。

これまでのルカなら喜んで色っぽい雰囲気に持って行っただろうし、ルカに触れるジェシカは明らかに誘っていた。身体を拭くなんて言いながら、はだけさせた素肌をつうっとなぞられる。
ジェシカ
ねえ、あんたさえ良かったらさ――あたしのことを愛人にしてくれない?

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