第28話

俺の好きな人(side:ルカ)
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2024/09/29 11:00 更新
ジェシカは上着を一枚脱ぐと、怪我をしていないルカの左手を取り、自分の胸元に導いた。

ルカと交流のある令嬢たちもさすがにこんな露骨な誘い方はしない。新鮮で思わずクスッと笑い声をあげてしまう。
ルカ
ルカ
……大胆だね
ジェシカ
こんな山奥で暮らしていたら誰だって大胆になるよ。大胆な女は嫌いかい?
ルカ
ルカ
いいや。大好きだよ
ジェシカ
あははっ! 良かった
そして、ルカの首筋にぎゅうっと抱きつく。
ジェシカ
あんたの好きにしていいよ。みっともなく追いすがったりもしないし、責任をとれとか家に押しかけたりもしないから
ルカ
ルカ
……欲しいのは、お金?
ジェシカ
助けると思って、援助してくれると嬉しいな
女一人で生きていくのは厳しいのだろう。

まあいいよ、と言ってあげたいところだし、これまでのルカなら「ちょっと遊ぶくらいなら」と手を出しただろう。だけど、今は……。
ルカ
ルカ
悪いけど、好きな子以外とはしないよ
きっぱりと誘惑を跳ねのけた。
ルカは痛みに顔をしかめながら立ち上がる。
ルカ
ルカ
助けてくれてありがとう、ジェシカ。ええと……、これじゃお礼にならないかな
懐を探ったルカは護身用の短剣を手渡した。
アドルナート公爵家の家紋入りだ。
ルカ
ルカ
売ったらそれなりの価値が付く
それに、調べようと思ったら公爵家にたどり着けるはずだ。ルカを助けたと言えばいくばくかの謝礼は払われるだろう。
ルカ
ルカ
じゃ、俺はこれで
ジェシカ
え! ちょ、ちょっと待ってよ!
悪かった。失礼な誘い方だったけど、出ていかなくてもいいじゃないか!
ジェシカは慌てたように追いすがってきた。
ジェシカ
ごめん、あたしみたいな田舎娘じゃ相手にならないよな。もう変なことを言ったりしないから、泊まっていきなって!
ルカ
ルカ
…………っ!
ああ、最悪だ。
胸を押さえたルカはその場にうずくまる。
ルカ
ルカ
(やばい……、苦しい……。もしかしなくとも、0時が近いのか?)
ジェシカは二十二時過ぎだと言っていたが、どうやら二十三時を回っているようだ。

ギリギリまでキスしなかったらどうなるのか――婚約したばかりの頃、ソフィーを焚きつけるような形で試してみたことがあったが、徐々に動悸が激しくなってきた。
ジェシカ
ちょ、ちょっと、あんた! 大丈夫かい⁉
ルカ
ルカ
ん、平気だよ
ジェシカ
そんな真っ青な顔して何言ってんの⁉ とりあえず、横になりなって!
すっかり誘惑する気も失せたらしいジェシカはルカをベッドへと誘導した。

だめだ。出ていかないと。

ジェシカに触れられるたび、ソフィーにも苦痛が与えられているのだ。
ルカ
ルカ
(愛の神、サービスしてくれないのかよ)
せっかく愛を知ったのに、「愛を得られないと」呪いが解けないなんて厳しすぎるじゃないか。
ジェシカ
……ド、……フレッド!
ルカ
ルカ
…………
ジェシカの声すらも段々聞こえづらくなっていく。

やばい。もう持たない。

ぼんやりと諦めかけた中――

ソフィー
ソフィー
ルカ様!!!

バン! と扉が開き、聞こえるはずのない声が聞こえた。
ジェシカ
~~~、~~~!
ソフィー
ソフィー
~~~~~~!!
何事か言い争っているかと思うと、ルカの唇に温かいものが押し付けられた。

荒い吐息と、柔らかい髪。

ルカを生かす、ソフィーのキスだ。
ルカ
ルカ
ソフィー……?
ソフィー
ソフィー
っ、ルカ様……
ぽろぽろ涙をこぼしたソフィーは、
ソフィー
ソフィー
こ、この人はわたしの婚約者です! だから、連れて帰ります!
なんと、ジェシカに向かって宣言して見せた。

あのソフィーが。
ルカを取られまいとするように。

ソフィーの勢いに押されたジェシカはバツの悪そうな顔をしている。

ルカの方に向き直ったソフィーは怒っていた。
ソフィー
ソフィー
ルカ様のバカッ! 何してるんですかこんなところで!
ルカ
ルカ
え、それはこっちのセリフなんだけど……。っていうか、どうしてここがわかったの?
息苦しさはあっという間に消えてしまっていた。
ソフィーのキスによって今日を生き延びたのだ。
ソフィー
ソフィー
アモルツァ様が導いてくださったんです
ルカ
ルカ
愛の神が?
ふわ、と蛍のような赤い光がルカの目の前で揺れた。神の光がこの山奥まで案内してくれたのだと言う。
ソフィー
ソフィー
それで、アルフレッド様に乗せてもらって、ここまで連れてきてもらって……
開けっ放しの扉の向こうにアルフレッドの姿がちらりと見えた。

ソフィーはもう一度「ルカ様のバカ!」と怒る。
ソフィー
ソフィー
なんで勝手にいなくなろうとしたんですか。嘘までついて……、死ぬつもりだったんでしょう?
ルカ
ルカ
えーと、その、俺がいないほうが幸せになれるかなーなんて……
ソフィー
ソフィー
わたしが好きなのはルカ様です!
ルカ
ルカ
……え?
ルカは驚いた。
ルカ
ルカ
ソフィーが好きなのは、俺……?
聞き間違いかと思って繰り返してしまう。
ソフィーは顔を覆って頷いた。彼女は震えながら泣きだしてしまう。

細い指の隙間からはぽろぽろと涙が伝っていて、たまらなくなったルカはソフィーを抱き寄せた。
ルカ
ルカ
ごめん……
どうやら、すべてルカのひとりよがりだったらしい。
ソフィー
ソフィー
…………
ルカ
ルカ
ごめんね、ソフィー……
自分のために泣いてくれる彼女がたまらなく愛おしいと思った。
こみ上げてくる感情が溢れ出る。
ルカ
ルカ
あのね、俺も、きみのことが
ルカ
ルカ
――世界で一番、好きだよ
気づいたらルカも泣いていた。

涙と共に、自分の中から何かがすうっと抜け落ちていくような感覚がする。

ソフィーとルカの身体からは赤い光の粒子が逃げていっていた。

愛の神
ルカ・アドルナート、ソフィー・サヴェッリ。そなたらの愛を真実と認めよう

ルカ
ルカ
愛の神……?
愛の神
その想い、もう二度と見失うでないぞ
二人を包む赤い光はゆっくりと消えていく。愛の神の気配も完全に消えてしまった。

呪いは、解けたのだ。

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