第7話

記憶6
40
2021/01/31 09:00
 時間が過ぎて夜、いつも二人の笑い声が響いている家にはレイトの寝息が聞こえていた。すー、すー、と響く寝息。幸せな夢でも見ているのだろうか? とても、優しい微笑みを浮かべている。
 しかし、静まり返ったはずの家に一つの音が響いた。
(なまえ)
あなた
(しまった!!)
 寝ていたはずのあなたである。本来であれば、寝ている時間のはずなのにどうして起きているのだろうか?
 ……理由は、お昼に散歩へ行ったときに感じた視線にあった。先程は憎悪、等と表現していたあなたであったが、その視線には何か“既視感”のようなものがあったのだ。
 詳しいことはなにもわからない。しかし、それを知らなければならない……なぜか、あなたはそんなふうに思ってしまったのだ。
 あなたは、何とかあまり音をたてずに家を抜け出せたようだ。
(なまえ)
あなた
(……ごめんなさい、ちょっと抜け出すだけだから)
 あなたは心のなかで一回レイトに謝った。そして、お昼に二人で進んでいった道を駆け出すのであった。
??
ようやく……みつけた
(なまえ)
あなた
だ、だれかいるの!?
 そんな声が聞こえたのは、あなたが走り初めて大体10分くらいたった頃だった。後ろから、前に感じたのと同じような視線……いいや、それから敵意が抜かれたような……ひたすらに何か懐かしいものであった。
??
酷いなぁ……忘れちゃった?
 驚いてあなたが振り返る。するとそこには……
(なまえ)
あなた
ル、ルイ……
ルイ
久しぶりだね、あなた。
 そこにいたのは……あなたの兄であるルイ、がいたのである。
(なまえ)
あなた
あなたがどうしてここにいるの……
ルイ
ずっと、探した。心配していたんだよ
 あなたに抱きついたルイ。驚いて転びそうになったあなた。しかし、何とか持ち直して冷静に答える。
(なまえ)
あなた
お願いだから、答えて。どうしてあなたがここに……
ルイ
……あなたがいなくなって、代わりに僕が兵役にいくことになったんだ。そして、僕は“とある人物”をマークするように言われた。
 とある人物、という不穏な響きに大きく跳び跳ねるあなたの心臓。
(なまえ)
あなた
とある人物って……誰のこと
ルイ
それは、あなたがいつも一緒にいるあの男のことだよ
(なまえ)
あなた
え?
 すっとんきょうな声があなたの口からこぼれ落ちた。どうして、祖国を裏切って逃げ出した私ではなく……レイトなのだろう。そんな疑問が思い浮かんだ。
ルイ
知らなかった? あいつの“秘密”について。あいつは元々……僕らの仲間をたくさん殺した“殺人鬼”だ。
(なまえ)
あなた
さつじん……き?
ルイ
そう、あいつは……元々あの国では“英雄”と呼ばれていたんだ。それこそ、あなたと一緒でね。
 知らなかった、そんなこと……あなたは、思わずにそんな言葉をこぼしてしまう。
ルイ
ねぇ、あなた。ここで一つだけ取引があるんだ。
(なまえ)
あなた
とりひき……?
ルイ
あなた、君にあいつのことを殺してほしい。
 ──殺す

 それは、今までのあなたが何度も行ってきた行為であった。人の命を奪い、その人の未来を亡くすこと。
(なまえ)
あなた
……そんなの……できないよ
ルイ
どうして?
 出来るとは思えなかった。あまり長い時間を共に過ごしていないはず、殺そうと思えば殺せるはずなのに……。
(なまえ)
あなた
わからない……けど……
ルイ
そっか……でも、これはあなたにとってチャンスだよ
(なまえ)
あなた
チャンス?
ルイ
そう、君がこの国に戻ってくるチャンス。功績を上げれば、必ず戻ってこれるはずだ。
(なまえ)
あなた
……まるで、人魚姫みたいだね。
 ポツリと、言葉をこぼしたあなた
ルイ
人魚姫?
(なまえ)
あなた
そう、王子さまと両想いになれなかった人魚姫が救われるために、お姉さんが差しのべた救いの手。自らの手で愛する人を殺すことで、自分はもとに戻れる……そんなもの。
ルイ
その理論でいくと……君は、あの男の子とが……好きってなることになるんじゃないの?
 好き、つまりあなたがレイトのことを愛している。そういうことなのだろうか? けど、すとんとその言葉は心に落ちてきた。
(なまえ)
あなた
そうなのかもしれないね……だから、他を当たって
ルイ
でも……君が殺さなくても意味はない……だっていつか……あの男は僕らの手で殺されることになるからね。
(なまえ)
あなた
え……?
 あなたの顔が絶望にそまった。レイトが、殺される。その事実があなたの心を締め付けた。
ルイ
そんなに大切なら、君の手で殺した方がいいんじゃない……?
(なまえ)
あなた
……
ルイ
それじゃあ、僕はもういくよ。お願いだから戻ってきてね……。一緒に、“幸せ”な道に戻ろう?
 そういって闇夜に溶けていくルイの姿。あなたは呆然とすることしかできなかった。

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