壱馬side
「なぁなぁちょっと今から付き合えよ。」
中学の頃の腐れ縁に今から誘われた。
なんやねん、折角の金曜日やで?
俺の楽しみを潰しやがって…なんて馬鹿げたことは
心に閉まっておいて俺は快く承諾した。
優しいやろ?←
「まぁまぁ。」
ヘラヘラと笑いながら俺を連れていく友達。
右に曲がって今度は左に曲がって、
こんなに曲がって一体どこに向かっているのか。
ふと腕時計に目をおとすと、時刻は既に18時を過ぎていて。
俺の目に映る夕日は異様に大きく、
茜色の空は哀愁漂っていた。
昼間の灼熱の日差しが嘘だったのように吹く涼しい風に、
俺の額にあった汗は自然と浄化されていく。
居心地がいい真夏に思わず鼻歌が顔をだす。
「ほら、着いたぞ。」
友達が止まると同時に俺の視線は大きな建物に移った。
友達が俺を連れてきたかった場所とは、
かつて俺が毎日のように勉強しに来ていた場所。
三年前卒業した中学校。
あの頃と何も変わってないオンボロな校舎は、
今見れば旧懐が感じられる。
しかし、なぜここ?
すると友達は、見飽きた意地の悪い顔をした。
「久しぶりに忍び込みたくなって。」
あー、と俺は落胆した。
心底ムカついた。
またいつもの思いつきかよ。
俺はここ数年間、こいつの“思いつき即行動”に
巻き込まれるのをずっと避けてきたというのに、
すっかりその精神を忘れていたようだ。
うっかりあの手に再びのってしまった。
…ということは、付き合うしか選択肢は残ってないわけで。
仕方なく俺も着いていくことにした。
いや、なった。
暫く歩いていると見えてきたのは懐かしい3―7の札。
変わらず廊下には
誰が書いたかも分からない落書きが丁寧に残っていた。
「おい見ろよーまだ残ってんね俺らの。」
友達が指さすのは教室の扉に貼ってある一枚の紙。
確かあれは保体委員会で作った安全ポスター。
まだあったんか、ふりぃな。
「なぁ壱馬、これ懐いなぁ。」
次から次へと懐かしさに浸っていく。
そしたら時間なんてあっという間に過ぎていって、
気づけば一時間は過ぎていた。
「おう。」
俺らは揃って教室を後にした。
のはいいのだが、
突如俺の耳をいっぱいにしたのは、聞き覚えのある声。
「なんか聞こえるね。」
遠くの方で男の人の叫ぶ声が聞こえてくる。
しかしやはり、引っかかるのはこの声。
どっかで聞いたはず…どっかで…いや、毎日…
「はぁ?翔平がここにいるわけ…」
確かに冷静に考えてみればそうだが、
どことなく翔平の声に似ていると思う
自分の意見を否定することは出来ない。
「なんて言ってるんだろ。」
しかしそんなの…俺には叫び散らかしてるようにしか…
た…………け………
いや違う。
た……け……て
そうじゃない。
た……すけ…………て
「助けて」
今度ははっきりと聞き取った。
誰かの、助けを求める声。
「おい……おい!壱馬!あれ!」
友達が指さしたのは向かいの校舎三階の窓。
小さく開く向かいの窓から、
突如現れたのは見覚えのある女。
それと、
翔平。
そう俺が疑問を抱いたのも束の間。
小さな窓から少しだけ見えたのは、
予想だにしなかった衝撃的な光景で。
俺の全身を打つ鼓動は一段と速くなった。
額を流れる汗の温度が変わる。
なんなんや、あれは。
「あれ翔平だよな…?ヤバくねぇーか?」
「ちょっ!待てよ壱馬!」
俺は咄嗟に駆け出した。
というより、足が勝手に動き出した。
滑る廊下を転がるように走り、翔平らの元へと急ぐ。
時折俺の髪を波かせる風は走る度に冷たく変化していく。
俺には
どうしても
こいつを守りたい
いや、守らなければならない理由がある。
目の前には血だらけの翔平と、
鋭く不気味に光る刃物を持った例の女がいる。
ビリビリに破れた制服を身に纏う翔平は、
俺が近づくなり声をあげて泣き始めた。
部屋に響く翔平の声は実に幼く、
でもどこか恐怖や切なさも感じられた。
唐突に叫び荒らかす女は、
刃物をこちらに向け、
覚束無い足取りで近づいてくる。
そして走り出した女は腕を振り上げる。
俺の腕の中には翔平。
今翔平を…あいつの親友を守れるのは俺しかいない。
俺は翔平に覆い被さるようにして抱きつく。
そしてその後、
俺の時間はピタリと止まったのだった。
next…












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。