第6話

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2019/03/03 15:19
〈廣瀬一太〉
月宮団の屯所に女がいるとは聞いていた。

俺は、どうせ女中の類だと思っていた。

ところがどっこい。

そいつは遊廓で働いてると鷲さんは説明する。

-遊廓?
花街の芸妓なんかが月宮団にいるなんて。

……怪しい。
俺は即座にそう感じた。
長州の間者かも知れない。
あの娘だけではなく、娘と共に来たという島津っていう幹部隊士も。

鷲さんや東堂さん、それ以外の幹部隊士も普通に彼女と接している。なんの疑いもしていない様子だった。

だが、俺だけは彼女に目を光らせていた。

月宮団隊士でもない俺が言える身ではないが、勿論、怪しい行動をとったら斬る。
そう思っていた。
そんなある夜。
せっかく久しぶりに来た京。
夜の京も散歩してみたい。涼みたかったことも兼ねて、外へ出ることにした。

そのとき。
背後から「廣瀬さん?」という若い女の声が聞こえた。
諸星明日香
諸星明日香
どこへ行かれるんですか?こんな夜中に...
不思議そうな顔をしたあいつがいた。
風呂上がりだろうか。顔が少し火照っていた。
名前は...確か...
廣瀬一太
廣瀬一太
確か明日香って言ったっけ。ちょっと鴨川まで散歩しようと思ってさ。
しめた。

こいつも一緒に連れていこう。
そして、長州の患者かどうか俺が調べてみよう。

そう思った刹那。
明日香は突然こんなことを言い出した。
諸星明日香
諸星明日香
お気持ちはわかりますけど、髪が濡れたままだと風邪をひきますよ!?
真っ青な顔をして、そそくさと俺の髪を拭き始めたのだった。
...何を企んでいるのか全く分からない。
廣瀬一太
廣瀬一太
...前々から思ってはいたけど、明日香って面倒見がいいんだな。
俺は少し賭けに出てみた。
遠回しに、「前から妙に怪しい行動をしているな」と言ってみる。
でもどうしたことだ。

まるで図星を言われた姿を見せない。
それどころか、隊士のことが心配だとか言い出した。

-不意に、俺の姉貴と明日香の姿が何故か重なった。

何故だ?
何故、明日香と姉貴が...。

そんな自分が可笑しくて苦笑する。
気づけば俺は、自分のことを明日香に話してしまっていた。
廣瀬一太
廣瀬一太
言っとくけど、特別扱いなんてされるつもりないから。
俺はさっと我に返って言い放つ。

...明日香は何も言わない。
ちらりと明日香の顔をみる。
明日香の目は俺の足元に向けられていた。


...もしかして、俺がこんな話をしたから-
廣瀬一太
廣瀬一太
聞いてんの?
諸星明日香
諸星明日香
え?あっ、はい。
素っ頓狂な声で俺に顔を向ける。

なんか...面白い。
いい暇潰し相手になるかも。

そして門へと歩き出す。
でも明日香はついてこようとしない。
つか、「仕事があるからいいです」なんて言って逃れようとしていた。

...そんなことで、はいわかりました、と言うとでも?
俺は半ば脅すように手首を掴む。
そして明日香に近づいた。
すると明日香は少し顔を赤らめてしぶしぶ俺についてくる。

...初めてあんなに近くで明日香の顔を見たが、なかなか良い顔をしている。

顔を赤らめ、どこか悔しそうにする明日香の顔は、ちょっと可愛くみえた。

...なんて思ったのは、俺の心の中だけの話だ。

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