第4話

#1「君」の世界 (1)
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2025/04/05 03:58 更新
太宰side
 私の名前は、太宰治だざいおさむ砂色すないろ長外套コートに、ぼさぼさの蓬髪ほうはつ、首と手に巻いた包帯が印象的チャームポイントだ。
[太宰治]
やァ、織田作おださく。久しぶりだね
 今は、彼は誰時かわたれどき、静かな君に、ひとごとのように話しかける。
[太宰治]
色々あって、落ち着くまで、全然来れなかった。ごめんね。
 と云いながら、君を見た。こうやって、君を見下ろす日が来るなんて、あの頃は思ってもいなかったよ。
[太宰治]
そうだ。織田作に話したいことがあってね
 出来るだけの笑顔を作って語りかける。
[太宰治]
この前、・・・・・・孤児こじを助けたんだ。
 私が話しているというのに、今の君は無視むしかい?昔の君なら、どう反応するんだろうね。君のおかげで、いい先輩せんぱい同僚どうりょう後輩こうはいに出会えた。
[太宰治]
本当に有難ありがとう。
 少しは、君に近づけたかな。
[太宰治]
まぁ、何をっても、君は、反応してくれないのだけれどね。
 そんなの、分かりきったことだ。けど、すこしこたえるね。此処ここに来るときは、毎回まいかい笑顔でいようと思うのに、どうしても笑えない。
 昔と見た目の違う君。動かない君。しゃべらない君。そんな君に話しかけてしまうほど、私にとって、君は大切な存在そんざいなのだよ。
[太宰治]
君に会いたい。もう一度、・・・・・・安吾あんごと三人で飲みたい・・・・・・。
 かなうことのないねがい。もう、四年間も君に会えていないのだよ・・・・・・。会いたい。
 何時いつもなら、まだ寝ている時間。
[太宰治]
目が覚めたら、急に君に会いたくなってね。
 此処ここから見える海も、まちも、まるで君のように、今は静かだ。けれど、もうすぐ何時いつもの朝になる。何時いつものように、にぎやかになる。みんな起きて、仕事に出かける。学校に行く。けれど、君はあの日からずっと起きない。
[太宰治]
起きてよ・・・・・・。君に会って話したいことが、いくつもあるんだ。
 つい先程さっきまで鉛白えんぱくだった水平線が、梅鼠うめねず色に染まってきた。そろそろ、皆が起きる時間かな。
[太宰治]
却説さて私は入水じゅすいに行ってくるよ。
 何時いつ其方そっちで君と会えることを願っているよ。
 何時いつもと変わらない、川。昨日は、流れが急だったから、死ねると思ったんだけど・・・・・・。
[太宰治]
今日こそ、死ねるかな。
 そう云いながら何時いつものように、川に入る。夜明けの川は冷たい。落ち着く・・・・・・。まるで故郷こきょうに帰ったみたいだ。目を閉じて、何も考えず、ただひたすら川を流れる。日頃ひごろから入水してる所為せいか、10分もぐっていても死なないのだけれどね。今日は早い時間からやっているし、敦君が来る前に死ねるかな。

 ・・・・・・もう、30分以上ったんじゃ?全然死ねない。まあいい。敦君が来るまではあきらめずに頑張がんばろう。
 そう思った矢先やさき、誰かに足をつかまれた。敦君かな?今日は来るのが早いね。仕方しかたない。大人しくしてよう。
 川から、出されて目を開ける。目の前には、何時いつも通り敦君のあきれた顔が・・・・・・は?
???side
 今私は、乱歩らんぽさんにたのまれ、駄菓子だがしの買い出し中だ。
 何時も通り、二丁目にある煙草たばこ屋のおばあさんにつかまって、話し相手をした後急ぎ足で帰っているところだった。
 昼時で仕事の休憩時間きゅうけいじかんになったのだろう。作業員さぎょういん配達員はいたついんが飯を買いに近くの店に行く姿すがたが見えた。それと同時どうしに、川に流されている二本の足・・・・・・・・・・・・も。
 二本の足。それはどのような場合であっても、存在が奇妙きみょう誇張こちょうされて見えるものだ。だが今回は違った。その二本の足は風景にけ込み、昼のおだやかな日常と一体になっていた。
 私は二本の足を目で追いかけ、川まで行った。正直、ただでさえ二時間あのお婆さんに取られた。此処ここで時間を食っていると、乱歩さんの機嫌きげんそこねる。此処ここは見なかったふりをして、探偵社たんていしゃに戻るのが乱歩さんのためであろう。だが、目の前で二本の足が流れている。其れを見ぬふりして帰れば探偵社としての威厳いげんうしなう。此処ここは探偵社員として、助けるべきである。助ける、というのは目の前の二本の足がピクピク動いているからだ。死んでない。生きている。そのため今回は引き上げるではなく、助ける、だ。
 だが、助けたくても其れは私と反対側の岸に近い。歩道橋ほどうきょうをわたっても間に合わない。・・・・・・方法は一つ。私が泳いで助けることだ。だが、両手には駄菓子がある。駄菓子をおいて行くしかないのか・・・・・・。しょうがない。私は、砂色の長外套、くつ靴下くつしたぎ、駄菓子のふくろの近くにおいた。
 川に飛び込むと、あまりの冷たさにおどろいた。流石にこの冷たさで人間一人をつかんで岸に上がるのは手こずるな・・・・・・。私は二本の足の持ち主ののところに近づき、其の人を砂色の長外套の上から掴み、近くの岸に引き上げた。案の定、私が上がった岸は、駄菓子たちと反対側だった。
 二本の足の主は、砂色の長外套に、ぼさぼさの蓬髪、首と手に包帯を巻いていた。私はこの男に違和感を覚えた。何処どこかで見たことがある。この蓬髪。この長い睫毛まつげ。まるで、あのバーで話した青年ーー太宰治に似ていた。太宰は左目に包帯を巻いていた。だが、この男は左目に包帯を巻いていないし、外套の色が黒ではない。其れに、太宰は、もう死んだと芥川あくたがわから聞いた。あの日、マフィアの本部ビルの屋上から飛降り自殺をしたらしい。芥川と元部下の少年の前で。だからこの男は太宰ではない。似ている誰かだ。
 少しあって、男が目を開いた。「気づいたか?」と言う前に男は云った。
太宰治
・・・・・・は?
[織田作之助]
どうした。お前は流されていた。気づいたか?
 私が男の顔を覗き込むと男は、口を開いたり閉じたりしていた。うまく呼吸ができないのだろうか。私が話しかけようとした時、男が
太宰治
お、織田、織田作・・・・・・?
 と云いながら泣き出した。「会いたかった」だの「なんで」だのずっと同じ言葉を何回も何回も泣きながら云っていた。
 其れよりも、
[織田作之助]
何故なぜ俺の名前を知っている?
 私は一度もこの男に名乗っていない。其れに、其の呼び方を太宰にされて以降、誰にも言われていない。男は急に飛び起き、
太宰治
何故って・・・・・・其れよりなんで織田作が生きて・・・・・・。
 など意味不明なことを云っていた。
[織田作之助]
俺は一回も死んでいない。
 私は男にそういった後名前を聞いた。その時、男から出た言葉が信じられなかった。男は少し、いな、だいぶ悲しそうな、何かをこらえるかのような顔をした後名乗った。
太宰治
・・・・・・おぼえていないのかい?太宰だよ。太宰治。君の友人だよ。
[織田作之助]
太宰・・・・・・だと?
 ありえない。太宰は死んだはずだ。其れにこの太宰は、この前あった太宰とは見た目が違う。
太宰治
え、うん。太宰だけど・・・・・・。それよりなんで織田作がいるの?
[織田作之助]
・・・・・・本当に太宰か?あの太宰治か?
 私は、太宰と名乗る男にもう一度名前を確認した。信じられるわけがない。つい最近死んだ男が生き返っただと?しかも、前とは違う見た目で。
太宰治
う、うん。そうだけど・・・・・・あの・・って?
 男はまるで何も知らない、子どものような顔で質問してきた。
[織田作之助]
やみ暴力ぼうりょく代名詞だいめいし、ポートマフィアをべた男。太宰治だ。
 私は本当のことを話した。一つも嘘はついていない。それなのに男は信じられないという顔をした。
太宰治
私がポートマフィアの首領ボス?違う。私は探偵社員だよ。
 男はまた意味不明な発言をした。
[織田作之助]
俺が知る限り、探偵社に太宰治という人間はいない。俺が知る太宰治は、ポートマフィアの首領ボスだ。
太宰治
な、何を云って・・・・・・。そうだ、探偵社に連れて行ってくれないかい?そうしたら判るよ。私の云っていることが。
 男はなにか思いついたように云った。探偵社に連れて行くのか・・・・・・。危険な男かもしれないが此処ここ了承りょうしょうすることにした。
[織田作之助]
わかった。行くぞ。
太宰治
うん。
 俺と男は歩道橋をわたり、長外套たちを取った後、探偵社に向かった。探偵社に向かっている途中男は静かに魂が抜けたような表情をしていた。時々、私のことを見つめ、うつむいた。
 探偵社の前につくと、国木田がいた。
国木田独歩
遅いぞ、織田。何時間待たせたら気が済むんだ。乱歩さんがねている。お前がどうにかしろ。
 案の定、乱歩さんが機嫌を損ねている様子らしい。二時間またせたうえ、男を拾ってきたからな。
国木田独歩
どこで時間を食ってた。
 国木田からの質問攻めが始まった。
[織田作之助]
二丁目にある煙草屋のお婆さんと、この男だ。
国木田独歩
男?誰だ。
 国木田は眉間みけんしわをさらに深くしながら訊ねた。
[織田作之助]
太宰治というらしい。
国木田独歩
は?
 国木田が固まった。先程さっき威勢いせいがなくなり、青ざめていた。
国木田独歩
だ、太宰?
[織田作之助]
嗚呼。太宰治と名乗っていた。
国木田独歩
は?え?
 国木田は混乱したように口を開いたり閉じたりしていた。
太宰治
く、国木田君?私のこと判る?
国木田独歩
太宰治だろ?あの・・・・・・ポートマフィアの首領ボスの・・・・・・。
 国木田は青ざめ、後退あとずさりしながら云った。
太宰治
・・・・・・本当に、此処ここは違う世界線なのだね。
 男は、悲しい顔をした後、ポツリと云った。
[織田作之助]
違う世界線?
 私は男に訊ねた。違う世界線とは何だ?
太宰治
ああ。多分だけど此処ここは私が君と出会っていない世界線だ。本来、私は君と出会い、ポートマフィアを抜け、探偵社に入社にゅうしゃした。国木田くんが同僚だよ。織田作は、ポートマフィアを抜ける時に死んじゃったけど・・・・・・。
 男は、今まで以上に意味不明な話をし始めた。
国木田独歩
どういうことだ。俺はお前と同僚ではない。お前はポートマフィアの首領ボスで、この前死んだはずだ。
 国木田は男と一メートル以上離れた距離きょりから反論した。
太宰治
だから云っただろう?此処ここは、違う世界なんだ。そうだね・・・・・・乱歩さんに聞いてみよう。先程さっきの話からして、乱歩さんは探偵社にいるようだしね。
 男は少し考えた後に云った。乱歩さんならこの状況じょうきょうが判るのか。
江戸川乱歩
僕はいやだよ〜?
 上から声がした。乱歩さんだ。
太宰治
乱歩さん!
 男は、少し安心した表情をしたが、乱歩さんの言葉を聞き、ため息を付いたあと、
太宰治
そこをなんとかお願いします。乱歩さんなら知っていますよね?
江戸川乱歩
・・・・・・だとしても、僕が太宰を助ける必要なくない?面倒くさいことはいやなんだよね。
太宰治
たしかにそうですが、・・・・・・折角せっかく、織田作と会えたんです。お願いします。ラムネでも何でも渡しますから。

 男は外から上にいる乱歩さんに、何度もお願いしていた。
国木田独歩
おい。
 国木田が先程さっきよりも離れたところで男に話しかけた。
国木田独歩
お願いするなら、上にいけ。それがお願いする態度たいどなのか?
 国木田は、何時いつもよりも冷たい目で男をにらみながら云った。
太宰治
確かにそうだね。まないね。失礼するよ。
 男は、あのときと同じように生まれたときから身につけていたという感じのこなれた微笑みほほえみを浮かべながら云った。
[織田作之助]
俺が先に入る。
 私は男を階段で追い越し、先に中にはいった。
[織田作之助]
乱歩さん。駄菓子です。
 私は、両手に持っていた駄菓子の袋を乱歩さんの机においた。
江戸川乱歩
織田じゃないか!もう!遅いよ!どれだけこの名探偵を待たせる気なの??
 乱歩さんは何時いつもの台詞セリフを言った後、自分の椅子に座った。
[織田作之助]
すみません。お婆さんと話していたのと、川で男を拾ったので。
江戸川乱歩
またお婆さん。わかっていたけどさ。それで男って・・・・・・太宰?
 乱歩さんは私の発言に少し呆れながら、男について質問した。
[織田作之助]
はい。
 私は、本当にその男が。太宰かはわからないが、一応肯定こうていしておいた。
江戸川乱歩
ふ〜ん。あ、太宰入ってきなよ。
 乱歩さんは扉の向こうにいる男に入室するよう指示した。
太宰治
え?でも・・・・・・
 男は、他の社員を見ながら戸惑っていた。他の社員は全員、男の顔を見た瞬間しゅんかん、固まった。
 芥川が、任務に出かけていて良かった。もしいたら今頃、この男はきにされていただろう。
江戸川乱歩
何いってんの?早くしてくれない?何時いつ入ってきてもどうせ皆に拒絶きょぜつされるんだし。
 乱歩さんは呆れたような顔をしながら男に話しかけ、ラムネを開けた。
太宰治
うっ・・・・・・わかりましたよ。
 男は、気まずそうに部屋に入り、乱歩さんの机の前まで歩いた。
 太宰が目の前を通る時、ほとんどの社員が身構えた。それもその筈、此奴こいつはポートマフィアの首領ボスだからだ。
江戸川乱歩
それで、なんで太宰がいるの?もしかして入水したら此方こっち来たとか?
 乱歩さんは、鼻で笑いながら男に問いかけた。入水・・・・・・この男は自殺を図ったのか。
太宰治
ええ。其の通りです。織田作の墓に行って、少し話した後入水しに行ったら、此処ここに。
 男はまるで当たり前のように、入水しに行ったと云った。普通の人間は入水したのかと聞かれたら、それを隠したがると思うのだが・・・・・・。川に流されていたのにやけに風景に溶け込んでいたのは、それが日常だからか。
江戸川乱歩
ふ〜ん。で、あの莫迦ばかな太宰だけど、自殺したんだよね。勘違いかんちがいで。
 乱歩さんは興味がなさそうに返事した後、太宰の話をした。
太宰治
え?勘違い?
 男は乱歩さんの話を聞くと目を見開いて驚いていた。私も驚いた。太宰は勘違いで自殺したのか。ポートマフィアを統べた男が勘違いで・・・・・・。
江戸川乱歩
うん。けどこれ以上聞きたいなら、これ。
 乱歩さんは男に、七つの線で区切られ左の大きな枠に『いいよ』と書かれた判子が押してある、紙を渡した。
太宰治
これは?
 男は其の紙を手に取り観察しながら乱歩さんに聞いた。
江戸川乱歩
『いいよカード』
 『いいよカード』か。それなら芥川のときもやっていたな。私も芥川に『いいよ判子』をこの前押したな。
太宰治
『いいよカード』?ってなんです?
江戸川乱歩
探偵社の調査員全員に事情を説明し、全員からの了承りょうしょうとして『いいよ判子』をそのカードに押してもらうこと。其れが、この世界を教える条件だ。ちなみに社長にはもう貰ってある。
 乱歩さんは芥川のときと同じ説明を男にもした。
太宰治
社長?何故・・・・・・
 男は驚いた顔をして固まった。
江戸川乱歩
僕を誰だと思ってるの太宰。名探偵だ。太宰が来たことも、この後どうなるかもだいたい分かるよ。だから、芥川の時と同じようにする。『いいよ判子』をもらう条件は、今回は信頼しんらいを得ること。この前は他の条件だったけど、今回はこれでも大変でしょ。
太宰治
ええ。まあ。でも何故なぜ社長が?
江戸川乱歩
僕が名探偵だから。
江戸川乱歩
僕が、この後起きることを全部、社長に話した。太宰がいる世界のことも、この世界のこともね。そしたら社長が芥川の時と同じようにやれ。っていうもんだから。社長の命令じゃ断れないしね。少なくとも、社長は、僕のおかげで!君を信用しているよ。他の社員は君次第きみしだい
 乱歩さんは、男に指を指しながら、大きな声で自分のお陰だと云った。さすが乱歩さんだ。何もかも全てお見通しなんだな。
太宰治
・・・・・・わかりました。乱歩さん。有難うございます。
 男は少し微笑みながらいった。
江戸川乱歩
別にいいよ。社長命令だもん。あ、ラムネ10本ね。
太宰治
10本・・・・・・
 男は引き気味に乱歩さんの要求を復唱ふくしょうした。
江戸川乱歩
なに?いやならいいんだよ?その代わり、織田とどうなっても知らないよ。
太宰治
ッ!いやじゃないです!いやな訳が無い!
 乱歩さんの言葉に男は声を張り上げた。その所為せいで女性社員の多くが驚いていた。
江戸川乱歩
・・・・・・あっそ。
 乱歩さんは少しも興味を示さず、男に背を向けた。
太宰治
その前に乱歩さん。此処ここには誰がいるんですか?
江戸川乱歩
えぇ・・・・・・。ラムネ5本追加ね。
 男が訊ねると、乱歩さんは「まだあるの」と云いたげな顔をしながら椅子を回転させ、男の方を向きながら追加の要求をした。
太宰治
は、はい。
 男はまたもや少し引き気味だが了承した。
江戸川乱歩
社長、僕、国木田、織田、与謝野よさのさん、賢治君けんじくん谷崎たにざき、芥川。だから、あと6人ね。
 私も含まれるのか。与謝野さん達から貰うのはそこまでかからなそうだが、芥川が心配だ。『いいよ判子』を貰う前に八つ裂きにされてしまいそうだ。
太宰治
芥川君?
 男は、信じられないという顔をしながら乱歩さんに聞いていた。
江戸川乱歩
嗚呼。此方こっちの世界では芥川が探偵社にいる。
 此方こっちの世界では?男が言う違う世界では芥川は探偵社員じゃないのか。
太宰治
敦君は・・・・・・ポートマフィアですか。
 男は敦君と云いながら少し悲しそうな顔をしていた。たしか、太宰が飛び降り自殺したときに、芥川と一緒いっしょにいたのがその人だった気がする。
江戸川乱歩
君が勧誘かんゆうしたんだ。僕の所為せいじゃないからね。早く聞きたいでしょ。皆に説明したら?
 乱歩さんは男に返答をした後、駄菓子を食べながらゲーム機を取り出した。会話終了だ。
 男は少しうつむいた後に、覚悟を決めたように乱歩さんを、否、外を見た。外と云っても、外の風景ではない。向かいのビルよりも、もっと奥、地平線よりももっと奥の何処どこか遠いところを見つめていた。私には何処どこを見つめているか少しも見当がつかない。

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