親戚たちが集まって、
やれ従姉妹のあやちゃんが結婚するだの、
叔父さんとこに3人目ができただの、
そんな話で持ちきり。
縁側で化学のプリントを眺めながら、
二宮先生に会いたいな、、、
なんて。
従兄弟のお兄ちゃんがうちわをパタパタさせながら覗き込んでくる。
よっこらせ、と横に座ると
風鈴の音がチリンと響く。
大学生になった従兄弟のお兄ちゃんは、
私の初恋の人。
最近特に
男らしくなったと思う。
でも、
二宮先生の大人の色気を知ってしまった。
あの無意識に醸し出されている色気は、
白衣からも眼鏡からも、
煙草からも
いつも辛いくらい感じている。
なんて、へらへら笑う。
初めて従兄弟のお兄ちゃんの気持ちを知って、
でも、応えることができない苦しさも
感じていた。
ごめんね。
きっと1年前ならよくわからずにとはいえ、
応えられていたその気持ちに、
もう未練は全くなくて。
こんなにも人を好きになったのは初めてで、
そして目の前で
報われない気持ちの辛さを知った。
その夜、近くで開催される
花火大会を親戚みんなで見た。
これも毎年恒例なのだけど、
いつもと違うのがひとつ。
いつか、二宮先生と花火大会に行きたいな
いつか、二宮先生にこの花火を見せたいな
いつか、なんて
叶うことのない想いで胸がいっぱいで
目の前には綺麗な花火。
ドーンとお腹の底に鳴り響く音。
夏の夜は本当に切ない。
花火の散ったあとの静かさに
またチリンと
風鈴の音が聞こえた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!