幸いにも2人とも会話はできる状況で、
グッタリしていたけど水分を取って
眠りについた
冷房の効いてきた保健室の
真ん中のテーブルで、3人で一息つく。
私と二宮先生の声が重なり、
目が合う。
目が合うだけで、
さっきの保健室のドアの前から
あのベッドまでの、
ほんの僅かな時間を思い出させられる。
音を立てるように傷ついた、
胸の痛みを
同時に思い出す。
二宮先生が、
その腕でまりのことを抱えていた。
誰が悪いわけでもない、
緊急事態だったんだから仕方ない。
それでも、
私も触れたことのない二宮先生は、
どんな風に触れるのだろう。
ハッと気がつくと、
相葉先生がこちらを心配そうに見ていた。
チラと二宮先生を見ると、
そんな私のことなんて
気にも留めていないようで、
必要書類を書いていた
眠そうな返事をした二宮先生は、
書類に書かれた保護者の連絡先に連絡をするために、
事務机に向かった。
その背中を見つめる私の目は、
これ以上になく切なさを帯びていることくらい、
自分でも痛いほどよくわかった。
聞きなれたまりの、聞き慣れない
か細い声が聞こえて、
振り返り、
カーテンをチラと開け。
まりは、そこに横になっていて、
私を目で招き入れた。
熱っぽい目でこちらを見上げると、
まずお礼を言って、
微笑む私に続けて、
ごめんね。
と。
電話をする二宮先生に気づかれない小声で、
困った表情を浮かべた。
嘘。
さっきまで超傷ついてたじゃない。
ズキズキ今も胸が痛むの。
まりを見ていると、
そのカラダに二宮先生が触れたなんて、
と思って心が壊れそう。
いつから私はこんな我儘になったの?
辛そうな表情なのに、
ニッと歯を見せ笑うまりは
太陽みたいだ。
二宮先生は電話を終えたのか、
独特の足音が数回聞こえると、
ものすごく近くで止まる。
カーテンの隙間から二宮先生を見る。
と、小声で確認すると、私は頷いて。
入るぞ、と二宮先生が入ってくる。
カーテンの外に出る二宮先生の後ろ姿に、
まりは私の背中をペシッと叩く。
その言葉に甘えて、
二宮先生の後ろ姿についてカーテンを出て、
また二人の空間に戻る。
爪を弄っていた二宮先生が
目だけこちらに向け、ぼそりと放った。
ありがとう
なんて
言われたの初めてかもしれない。
部屋の片付けをしても、
お昼ご飯を買っても、
言われなかった
その言葉。
コクコクと頭を縦に振ると、
一瞬微笑みを浮かべて、また爪を弄り出す。
ありがとう
たったその5文字が、
さっきまでの私の傷ついた心を、
すうっと修復する。
まるで、魔法の言葉
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。