『最後』って言葉は、なんとなく
人を不思議な気持ちにさせる効果があると思う。
最後の体育祭、最後の物語、最後の人生。
まぁようするに、何でもぽくなるって話だ。
それが真実か嘘かは、その先しか知り得ないが。
だから僕はわざと、君にこの言葉を使う。
真実か嘘か、この曖昧で嘘つきな言葉を。
最後なんて言ったクセに、
意外と次があったりする事ってあるでしょ。
そんな可能性に、僕は少しだけ期待をしたんだ。
この言葉だって、真実かは分からないから。
中也だってきっと分かってるハズだ。
治のこの言葉には、何か意味があると。
扉を開け、外に出る。
空は雲一つない澄み切った青だ。
そう言って不思議そうに空を眺める中也。
横から見える瞳は、やっぱり少し空とは違った。
浮かんだ言葉は、そっと心の奥に閉まっておいた。
やっぱり僕一人の宝物にしよう、なんて思いながら。
青空の元歩き出す二人の背中は、
静かに『家』と呼ばれた場所から遠ざかって行く。
治と中也が、もうこの場所に
戻って来る事は無かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。