放課後の図書室は、いつも通り静かだった。
窓から差し込む午後の光が、返却台の本を淡く照らす。
彼女はすでに机に座り、何冊かの本を広げていたけれど、指先でページをなぞるだけで、ほとんど読んでいないようだった。
「そろそろテストだけ」
「その話はやめてくれ。」
僕は食い気味に否定する。
「やーだ。テスト勉強してる?」
「してるけど今回の範囲は僕の苦手な単元ばかり」
「大丈夫なの?」
僕は返却台の本を整理しながら返答する。
「そんなわけないでしょ」
彼女は肩をすくめ、軽く笑った。
「ここでやれば?静かだし、誰も邪魔しないし」
その言葉には、どこか妙な説得力がある。
それに、僕の胸の奥が少しだけ重くなるのを感じた。このまま心抉られるのは御免なので、
会話を変える。
「借りる本、決めた?」
うちの学校の図書委員は、自由に本を借りれるという利点がある。本が好きな僕にとってこれは図書委員になる決定打だった。
「まだだよー?」
彼女の好きなタイプの本を聞いたことがないのを思い出し、聞いてみる。
「君はどういうタイプの本が好きなの?」
「小説かな?」
「絵本が好きなのかと」
「いつになっても童心を忘れないってことだね」
彼女がまたおかしくなり始めたので無視する。
少しの沈黙が流れた。気まずくはない。
その沈黙を切り裂くように、彼女は僕に一冊の本を差し出す。
「読んでみる?」
「いや、僕はいい」
「ふーん、つまんないやつ!
だから友達いないんだよ〜!」
笑いながら、彼女はページをめくる。
到底笑いながら言っていい言葉ではない。
僕は深く傷付いた。
僕の心情なんか気に留めず、彼女は話しかけてくる
「ねえ、見せて」
「何を?」
「その本の表紙!」
「たいしたことないよ」
「見せて」
仕方なく渡すと、彼女はじっと見つめ、首をかしげる。
「ふーん……君、こういうの好きなんだ」
「たまたま手に取っただけだよ」
「じゃあどんなのが好きなのー?」
「切ない恋かな。余命幾ばくの人と恋をする物語とか。」
その時、彼女の顔が歪んだ。
彼女は感受性が豊かだ。それ故に表情も多い。
困惑した顔、虚を突かれた顔、悲しそうな顔、いろんな感情がごちゃまぜになったような顔をして、
やがていつもよりぎこちない笑顔に戻ってきた。
彼女の返答は、返ってこなかった。
「でも、なんで黙って並べるだけなの?
切ない恋なんてうちの図書館にいっぱいありそうだけど。」
話題を変えられた。あまり深くは考えない。
「楽だから」
「変な人」
彼女はさっきのぎこちない笑顔ではなく、
本当に楽しそうに笑った。
少しだけ安心した。
会話が終わるものかと思っていたけれど、
彼女が畳み掛けてくる。
「昨日の夜、何してたの?」
「テスト勉強と、本を少し」
「ふーん……退屈じゃなかった?」
「普通」
「普通って。君は本当に釣れないな」
彼女は机に肘をつき、僕をじっと見つめる。
「君って、怒ったりするの??」
「ほとんどしない」
「やっぱり君はつまんない人だね!」
「久しぶりに怒れそうだ。」
「待って冗談だよ!!!」
しばらく沈黙が続く。
僕はページの音だけを聞きながら、彼女の横顔を見つめる。
気付けばもう17時30分になっていた。
「そろそろ帰ろー、飽きちゃった。
定時退社しよーーう!」
僕もそろそろ帰りたいと思っていたので、
彼女の提案に乗ってあげる。
「そうだね」
本を片付けながら彼女が聞いてきた。
「明日も同じ時間に来る?」
「もちろん」
「じゃあ明日こそは!!一緒に行こう!!」
僕はいつも彼女を置いて先に委員会活動に来ている。それは彼女が僕と反対の人間だから。
他の人間に関わっていること、ましてや付き合っていることを知られてしまってはぼくは確実にいじめられる。人間関係に疎い僕でもわかる。
彼女は可愛い。関わっていたら痛いくらいの視線を浴びる。だから避けてるのだ。
放課後の図書室は今日も静かだった。
でも僕の胸はざわついている。
気にしないと言ったが、やはり気になる。
あのぎこちない笑顔の下にあるもの。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。